衛星通信システムの構成
 通信衛星と地球局



衛星通信システムは、衛星に電波信号を送る送信系、上空で電波を中継する通信衛星、衛星からの電波を復調する受信系の構成です。送信系、受信系を持つ地上局は地球局と呼びます。衛星の構造は地球局と同様ですが、多くの信号を同時に処理できます。


最も基本的な衛星通信システムは、1.信号を変調してアップリンクの周波数に変換し、大電力に向けて電波を送る送信系、2.その電波を受けて増幅した後、再び地上に向けて送り出す通信衛星、3.衛星からの電波を受けて元の信号に復調する受信系、の3つで構成されていています(図1)。

送信局は衛星に向けて大電力の電波を送ります。マイクロ波の大電力増幅器には、進行波管やクライストロンなどの特別な真空管が使われてきました。最近では半導体素子の進歩が著しく、GaAs(ガリウムひ素)FET(電界効果トランジスタ)も使われています。
受信局は、衛星から送られてくる微弱な電波を受けて増幅します。そのため、増幅段階で発生する雑音を小さくして、受信信号が雑音に埋もれないようにする必要があります。この低雑音増幅器には、可変容量ダイオードなどの負性抵抗特性を利用したパラメトリック増幅器、GaAsFET、わが国で開発されたHEMT(高電子移動度トランジスタ)などが使われます。パラメトリック増幅器は電子冷却で非常に低温にすることもあります。素子が発生する雑音を小さくできるからです。
この送信系と受信系を持つ地上局は、地球局と呼ばれます。地球局のアンテナは送信用と受信用に共用します。送信電波と受信電波の分離は、アンテナの入り口にある分波器で周波数の違いを利用して行います。
アンテナはお椀のような形の反射鏡をもつ構造です。その反射面で電波を衛星に向けて細かいビームにして送ったり、衛星から来た電波を1点に集めて受けたりします。反射面は大きい方が電波をたくさん集めることができるので有利です。カセグレン・アンテナがよく使われます(図2)。
さらに、反射鏡で斜めに反射させるようなオフセット形も使われます。電波を目的の方向だけに集中させ、他へは漏れないようにすることが目的です。
ふつうの地球局では直径が数m以上のアンテナが使われますが、衛星の大型化に伴ってデータ通信などでは直径1m程度の小型アンテナを使う例も出てきました。これはVSAT(超小型衛星通信地球局)と呼ばれています。


衛星用の増幅器やアンテナは多元接続や苛酷な条件を考慮


衛星での電波の中継はトランスポンダ(中継器)が行います。衛星には数台から数十台のトランスポンダが積まれ、それぞれに違う目的地や異なる用途に使い分けることができます。トランスポンダを他人に貸して、その衛星回線を自由に使わせることもできます。
トランスポンダも基本的には地球局と同様に、低雑音増幅器と電力増幅器、アンテナから構成されます。衛星通信では多元接続が使われますが、FDMA(周波数分割多元接続)でもTDMA(時分割多元接続)でも、この構成は同じです。しかし、FDMAでは周波数多重された多数のチャネルの信号をトランスポンダの電力増幅器がまとめて増幅するので、増幅器にひずみがあるとチャネル間で信号が干渉してしまいます。TDMAでは1チャネルが周波数帯域全体を使うので、そのような干渉は起こらず、それだけ電力増幅器の設計は楽になります。
衛星に搭載する大型アンテナは、反射鏡の大きさが数mにも及びますので、反射鏡を折り畳んだ状態で打ち上げ、軌道上で開くという方法を取ります。
衛星に搭載する機材は、打ち上げ時の激しいショック、流星などの衝突、放射線や太陽熱放射、太陽風などの影響にも耐え得るように作られています。
図1 衛星通信システムの構成 図2 カセグレン・アンテナの原理図(断面図)
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