衛星の多元接続技術とは


衛星通信の特徴は、回線の設定が容易なことです。割り当てられている周波数帯域を複数の局で有効利用するためには、多元接続の仕組みが必要です。衛星通信の多元接続には、FDMA,TDMA,CDMAの3種類の方式があります。


衛星に搭載されている中継器(トランスポンダ)は、地上の多数の局(地球局)が共同で自由に使えます。どの局でも通信回線を簡単に設定できることは衛星通信の大きな特徴です。
割り当てられた無線周波数帯域をいくつかのチャネルに分け、多数の局がそのうちの適当なチャネルにアクセスして回線を接続する方法が「多元接続」(multiple access)です。携帯電話やコードレス電話などで使われている多元接続と同様の技術で、高価な衛星中継器を多くの局で共用できます。
各局へのチャネル割り当て方法には、通信相手ごとに通信量に見合ったチャネルを固定的に割り当てておく「固定割り当て」(PA:preassignment)方式と、ある区間で通信が始まる時に相手局へのチャネルをその都度解除する「接続要求割り当て」(DA:demand assignment)方式があります。PAは太束回線に適し、DAは多くの小束回線がアクセスする場合に向きます。


チャネル分割の方式はFDMA,TDMA,CDMAの3つ


チャネルの分け方として、周波数・時間・符号でわける方法、およびそれらの組み合わせがあります。必要な通信容量、周波数帯域、衛星の電力、地球局の規模、無線回線の特性などを勘案して決めます。
周波数でわける方法はFDMA(周波数分割多元接続)と呼んでいます。与えられた周波数帯域を一定の周波数間隔で分割し、複数のチャネルを作る方法です(図1-a)。
衛星中継器では、周波数の異なる複数の信号を1台の増幅器で共通に増幅します。このため、あるチャネルの信号が別のチャネルに漏えいして妨害を与えることがあります(混変調)。このような欠点があるにも関わらずFDMAは、1.多元接続の手順が簡単、2.局の設備が簡単、といった利点があり、最もよく使う方法です。例えばインテルサット衛星のアナログ電話回線は、FM(周波数変調)の信号をFDMAで接続するFM/FDMA方式を採用しています。
チャネルを時間でわける方法は、TDMA(時分割多元接続)と呼んでいます(図1-b)。この方式では、TDMAフレームに相当する時間を周期として、各局はフレーム内でその局に割り当てられた時間(タイムスロット)内に信号をまとめて(バースト状の信号にして)一括送信します。受信側では、一連の信号の中から自局向けのバースト信号のみを取り出します。送信側ではバースト信号がTDMAフレーム内の割り当てられた時刻に正しく送出できるように、一方の受信側ではフレーム内の正しい時間位置を識別して信号を取り出せるように、両者で同期(フレーム同期とバースト同期)をとる必要があります。
TDMAは、同期を取るための機能が必要となりますが、各チャネルの信号を周波数で分けるということはしないので、FDMAのような混変調は起こりません。また、通信容量の変更に柔軟に対応できる、ISDNなどの多様なサービスが扱える、といった利点もあります。インテルサットでは1985年からTDMAも使うようになりました。また、N-STARによる国内衛星通信にもTDMAを使っています。実際の衛星通信では、このFDMAとTDMAを主に使っています。
これに対して、すべての局の信号を同一の周波数帯で連続して送り、各局への信号はその局に固有の符号を使って識別するという方法があります。これをCDMA(符号分割多元接続)と呼びます(図1-c)。
CDMAは、チャネルの信号を最初はある周波数に変調し、続いて、使用できる周波数帯域全体の広いスペクトル(周波数成分)範囲にこれを分散させます。この方法は、干渉や妨害に強く、高い秘話性を保てるという長所があります。反面、広い周波数帯域を必要とするため、周波数の利用効率が低いという問題がありましたが、技術進歩のおかげで現在ではほぼ解消されています。CDMAの例としては、Cバンド(6G/4GHz帯)を使った米国のVSAT(超小型地球局)システムがあります。
図1 3種類の多元接続の原理
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