衛星を使った移動通信
インマルサットやイリジウム
衛星を使った移動通信は船舶を対象とした海事衛星通信から始まり、これは静止衛星を利用したインマルサットに引き継がれています。現在は、低軌道の周回衛星を数十機打ち上げて世界をカバーするイリジウム計画などもサービスの準備を進めています。
広域をカバーできる衛星通信は、固定局との間だけでなく、移動通信にもピッタリです。
まず、船舶を対象とした海事衛星通信が、1976年に米コムサットによりマリサット衛星を用いて開始されました。これはその後1979年に国際組織として設立されたインマルサット(INMARSAT:国際海事衛星機構)に引き継がれ、船舶通信のほかに航空機通信や陸上の移動通信も行っています。
インマルサットはトラヒックの多い大西洋地域を東西に分け、大平洋とインド洋地域と合わせて4地域に11機の静止衛星を配置して、グローバル・システムを形成しています。衛星と陸上地球局の間はCバンド(6G/4GHz帯)、衛星と船舶の間はLバンド(1.6G/1.5GHz帯)の電波を使っています(図1)。
移動通信の特色は、通信の要求が多数の移動端末から散発的に発生することです。このため通信要求が発生する度に、回線を割り当てる多元接続のDAMA(demand assigned multiple access)方式を使って、衛星の効率的利用を図ります。
98年以降に低高度周回衛星で世界的な移動通信サービスも
インマルサットが静止衛星を使った移動通信を行うのに対し、もっと高度が低い軌道で地上からも動いて見える周回衛星を使った衛星移動通信の構想が出てきました。
代表的なものが、1990年に米モトローラが提案した「イリジウム」計画です。これは低軌道の周回衛星77 機を使って、全世界的な移動通信サービスを展開するものです。原子番号77のイリジウム(Ir)元素で原子核の周りを77個の電子が回っている姿にちなんだ命名です。
現在は最初の構想を少し変え、高度約780kmの六つの極軌道(北極と南極を通る軌道)に11機ずつ、計66機の周回衛星(重さ約690kg)を配置することになりました。各衛星は前後左右の衛星と衛星間通信で結び、地球のどこからでもいつでも自由に通信できるようにします(図2)。電波の周波数は、衛星と移動端末間にLバンド(1.6GHz帯)、衛星間通信および衛星と地上固定局間に30G/20GHz帯のKaバンドを使います。周波数利用効率を上げるために、自動車/携帯電話と同じように地上を一定のセルに分割した小ゾーン構成とし、TDMA(時分割多元接続)を使います。衛星1機で直径500〜600kmのセル48個、直径4000kmの範囲をカバーします。
地上には世界中で15〜20カ所に地上固定局を置き、移動端末の位置を常に登録しておきます。日本では、DDIなどが出資した日本イリジウムが1地上局を設置する予定で、世界中どこでも電話番号一つで通信できるようにします。
イリジウムは、赤道上空の静止軌道を使う従来のシステムと違い極軌道を使うので、高緯度地域でも問題なく利用できます。また、衛星の軌道高度が静止衛星の約46分の1と低いので、1.伝搬遅延時間が短く、電話でも不自然にならない、2.伝搬損失が小さいので端末の送信電力を低減でき、端末の小型化が容易、3.衛星打ち上げコストが安くすむ、などの長所があります。1998年までに全衛星を打ち上げ、通信料は通信距離によらず、1分間3ドルでサービスを開始する予定です。
このような中・低高度の周回衛星を使い移動通信サービスの計画は、ほかにもインマルサットやKDDが出資する「ICO」(インマルサットP)、米航空宇宙大手TRRWの「オデッセイ」、米通信衛星大手ロラールを中心とした「グローバルスター」などがあります。ICOは、12機の中高度周回衛星(高度1万355km)を使い、99年中に1分間2ドル(全世界平均)の通信料で通話サービスを開始する計画です。
図1 インマルサット・システムの構成 |
図2 イリジウム・システムの構成 |
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