衛星放送の仕組み
 放送衛星と通信衛星



衛星放送は、静止軌道上の衛星から家庭向けに直接提供するものです。難視聴地域が解消できる、電波障害のない美しい画像を提供できるなどの利点があります。最近では、CATV(ケーブル・テレビ)で衛星放送を見たり、通信衛星からの放送を見ることもできます。


衛星放送は赤道上空3万6000kmの静止軌道上にある衛星から、地球上の特定エリア内の一般大衆向けに直接放送するものです。静止衛星は広域をカバーできるので、1個で日本全土に放送でき、地上電波の届かなかった離島などにも放送を行うことができます。
放送衛星(BS)は、地上にある地球局から放送プログラムの電波を受け、内蔵されている放送用中継器で増幅してから、地上のサービス・エリアに向けて再び送り返すものです。その構成は基本的には通信衛星(CS)と同じです。
違う点は、通信衛星の地上受信局が大型のアンテナを備えているのに対し、放送衛星では受信者は一般家庭であるため、直径数十cmの小型アンテナしか使えないことです。そのため、通信衛星の送信電力が20〜40ワット程度なのに比べて、放送衛星からは120ワット以上の電波を送信する必要があります。
放送衛星の電力は太陽電池から得ています。ところが静止衛星では、春分と秋分を中心とする約44日の間、地球の陰に入って太陽光が当たらなくなる「蝕(しょく)」と呼ばれる時間帯が出てきます(図1)。この時間帯は太陽電池からの電力が得られないので、衛星に搭載されている電池だけでは必要な電力を賄うことができず、放送は休止されます。蝕がない期間は24時間の放送が可能です。
衛星放送に使う周波数は、地上局から衛星へは14GHz帯、衛星から地上へは12GHz帯(8チャネル)を使います。非常に高い周波数体を使い、地上で受信する電波も非常に弱いので、受信側は指向性の強いパラボラ・アンテナや多数の小さなアンテナ素子を集合させた平面アンテナを使います。
映像信号は地上放送と同じアナログ伝送ですが、上空から電波が送られてくるので建造物や山による反射波の影響がありません。そのため、同じ画像が幾重にも現れるゴースト現象などが起こらず、きれいな画像が得られます。また、12GHz帯を使うので伝送帯域幅を広くとることができ、ふつうのテレビ放送のほか、ハイビジョンなどのHDTV(高品位テレビ)放送も実現できます。音声はディジタル伝送なので高品質です。


通信衛星からの家庭向け放送も提供中


最近では通信衛星による映像通信が盛んになっています。各地のCATV(ケーブル・テレビ)事業者に向けて、通信衛星を利用したテレビ番組を伝送するネットワーク(スペース・ケーブルネット)が作られ、CATVの多チャネル化が進められています(図2)。
以前は各家庭が衛星からの電波を直接受けてテレビ番組を受信できるのは放送衛星に限られていました。しかし、1989年の放送法の改正により、通信衛星を利用する放送(CS放送)ができるようになりました。通信衛星は放送衛星にくらべると出力が小さく、受信アンテナは放送衛星のときより大型のものが必要ですが、チャネルが多くとれるので今後の多チャネル化には有利です。
日本では、民間通信衛星のJCSATとスーパーバードが12GHz帯の放送衛星とは違う周波数を使って、テレビ放送や音楽放送を行っています。ただし、これらの通信衛星の位置が離れており、放送衛星ともかなりずれているので、受信アンテナは別々に用意する必要があります。目標の衛星に向きを変えられる首振り型アンテナを使う手もあります。
衛星を使った放送には有料放送があります。有料放送では、そのままでは中身が分からないようにスクランブラで信号の中身をランダム信号に変換して送信し、契約受信者はデスクランブラで元の信号に戻して受信します。

図1 地球の影による衛星の蝕
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図2 スペース・ケーブルネットの構成
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