インターネット上の情報は、国境を越えて流通するため、さまざまな情報倫理問題について、国際的な連携や協力を行い議論することが必要です。しかし、各国の文化、歴史、法制度の違いにより、国際的な統一ルールの作成は困難なことです。ですから、国際的なルールは、明らかに違法であるもののみに必要最低限の基準を設け、各国の自主性を最大限尊重し、ある国の特定の法制度や固有の倫理観を他国に押し付けることを避けなければなりません。
その第一段階として、各国の相互理解を深めるためにも、違法とされている情報に対し、各国の法制度を比較検討すると共に最低限の基準の設定が可能かどうか検討すべきです。
また、国際レベルの連携・協力はこのような各国の法制度の比較検討だけでなく、自主ガイドラインの作成、技術的対応策及び苦情処理体制の整備なども必要です。
情報倫理問題に関しては表現の自由の問題と関連しているため、現時点では、政府が自らルール作りに取り組むのは適当ではないのかもしれません。したがって、当面の対応としては、プロバイダーの団体による自主的なガイドラインの策定を進める事が望ましいでしょう。
また、各国の自主ガイドラインを策定している自業者団体間でのガイドラインの比較、その当該国における効果、当該国のガイドラインでは対応できないケース等について情報交換をするなどをして、各国のガイドラインの実効性を高めるための国際連携を図る事が重要です。
各国の法制度の相違を考慮した上で、発信者の表現の自由と通信の秘密の保護と受信者の適切な選択の機会の確保、さらには、自己が嫌悪する情報を受け付けない自由との均衡を図る方法としてフィルタリング ソフトウェアの使用が最適と考えられます。
しかしフィルタリング ソフトウェアは柔軟性のある方法ではありますが、レイティング基準をどの組織で策定するかについては、実施主体によりバイアスがかかる可能性があるという事から慎重に対処する必要があります。また、使用されるフィルタリング ソフトウェアは、各国において民間レベルの有識者による倫理委員会を設け、独自の基準により検討される事が望まれます。そして、各国の評価システムの比較、各国の倫理委員会との情報交換、グローバルな評価システムのさらなる可能性についても検討していく必要があります。
表現の自由との関係から、不適切な情報流通に関しては、事後的措置として苦情処理体制の整備することが必要です。つまり被害の救済や拡大防止のためには、利用者からの苦情の申し出に対して適切かつ迅速に対応する事が重要であるためです。また、苦情処理体制を整備する事により、苦情事例の蓄積、分析等を通じて、適切な情報流通のルール作りをする事ができます。プロバイダーも苦情の内容など一つの目安として、違法・有害な情報に対応する事が可能になります。
インターネットは、自由な情報流通を通じて豊かな情報通信社会の実現を可能にしていますがその反面、個人の情報社会に対する影響力や依存度が増大するため、利用者の責任が増すことになっています。この点については、一人一人の利用者のモラルの向上を図る事により対処すべきであり、そのために家庭、学校、企業等あらゆる場を通じて、情報社会教育を充実させる必要があります。自主ガイドライン、フィルタリングソフトなど倫理問題を解決する可能性のある方法はありますが、最も重要な事は情報社会教育により利用者の自覚を促すと言うことです。
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