4.電子マネーの実際と将来、利用動向、問題点、将来の予想等


4-1.電子マネーの実際の利用状況


 以下に現在の世界や日本での電子マネーの利用状況を示す。

世界の電子マネー


 現在多くの国々や地域でさまざまな形態の電子マネーを用いたプログラムが進められている。

1.Mondex[イギリス](マスターカードに買収)

 モンデックスは英国で開発された電子マネーであり、現在もっとも現金に近い電子マネーと言われている。ICカードだけで構成されたデジタル金融システムであり、お金に関するすべて、すなわち価値の保存と移動をすべてICカードのチップ内で行うという斬新なアイデアに基づいている。このアイデアを実行するには、強力な計算パワーを持ったチップが必要であり、近々暗号処理専用のモジュラー演算を高速に実行できるコプロセッサを内蔵した新型チップが登場する。

 モンデックスは、93年、イギリスの大手、ナショナル・ウエストミンスター銀行とミッドランド銀行の共同出資で設立された。ナショナル・ウエストミンスター銀行が行内で進めていた新しい電子カードの研究開発スタッフが、90年頃にカード自体に暗号機能をもたせたモンデックス・カードを発案。それを基にしている。実験地域としてはイギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、香港などに広がっている。この他にも、コスタリカ、韓国、フィリピンなど検討中の国も多数ある。

 モンデックスは世界中で通用することを目標に開発されたシステムであるため、1枚のカードの中には最大で5種類の通貨を格納できる構造を持っている。その利点を生かし、同じカードで世界中どこででも使用できることが想定されている。モンデックスは世界各国の銀行が取り組んでいる電子マネーのプロジェクトの中でも実用化に向けての取り組みが最も進んでおり、世界各国の銀行を相手にフランチャイズ形式で積極的に売り込んでいく方針を持っている。

2.VisaCash[アメリカ]

 VISAインターナショナルが1996年アトランタ市などで実験している電子マネー。ICカードを用い、従来のクレジットカード、デビットカード機能のほかに決済を目的とした電子マネー機能をもたせた。暗証番号の入力やオンラインでの信用照会も不要で、少額の支払いを、迅速に、便利に、簡単にする。また、現在多くの地域(日本ではSCJやSSS)で、実用化に向けたプロジェクトが進んでおり、ファーストフード、コンビニエンス・ストア、駅売店、公衆電話、公共交通機関、映画チケット、自動販売機など、さまざまなシーンで使用できるようになる。

 現在、金融機関と共に世界31カ国で70のプログラムが進んでおり、既に2,200万枚が発行されている。

 VisaCashカードには、大きく分けて「ディスポーザブル・タイプ(使い切り型)」と「リローダブル・タイプ(再補充型)」の2種類がある。ディスポーザブル・カードは、あらかじめ決められた金額の貨幣価値が充填されたもので、いわゆるプリペイドカードと同様の方式である。このタイプのVisaCashは、発行している金融機関の窓口および専用のカード発行機で購入することになる。また、リローダブル・カードには、あらかじめ貨幣価値は入っていないため、専用のリロード端末やATMで貨幣価値を充填する。一度充填した価値を使い切ってしまっても、繰り返し補充することが可能である。また、このタイプのカードは、クレジットカード機能やキャッシュカード機能、デビットカード機能を一枚のカードに同時に搭載し、買い物の金額よって支払方法を選択することもできるようになっている。

3.E-Cash[オランダ]

オランダのデジキャッシュ社のネットワーク型(ICカード型ではない)のデジタルキャッシュ。1994年10月からアメリカ西海岸地区で実験を開始している。利用者は参加銀行からE-Cashを購入し自分のコンピュータ上に置き専用ソフトウエアを用いてインタネット上の各種のバーチャルショップで電子決済が可能になる。銀行を通さずに自由に利用できるため匿名性が高いぶん、マネーロンダリングや脱税に利用されることが考えられる。

4.その他

 その他にも、サイバーキャッシュ社のサイバーコインやファースト・バーチャル・ホールディングズ社のインターネット・ペイメント・システム等が電子マネーの主な例として挙げられる。

日本の電子マネー


 現在の日本の電子マネーは欧米のそれと比べて非常に遅れている。以下に現在日本で行われている電子マネーのプログラムを以下に示す。

1.SCJ(スマート・コマース・ジャパン)

 東芝とVISAインターナショナルを主幹事とし、1997年10月1日から神戸の三宮、ハーバランド地区で行われているICカード方式の実験。通産省の電子商取引推進事業の一環として、新しい時代に即したカード技術を日本の市場で育てていくための実証実験を行っている。クレジットカード一体型のVISAキャッシュの実験が行われるほか、高校生や大学生を対象としたクレジット機能のないカードでの実験も行われている。

2.臨海副都心テレコムセンタ

 東京臨海副都心にあるテレコムセンタで富士銀行によって行われている実験。センタビル内ATMで銀行から入金し、センタビル内店舗(クローズドエリア)で利用できる。

3.郵貯ICカード実験

 埼玉県大宮市内で1998年2月から実施されている。郵便貯金における磁気ストライプカードからICカードへの移行実験。NTT、日本テレコム、KDDなど通信事業者が参加し、百貨店、スーパ、コミュニティストア、コンビニエンスストアなどで利用できるようになっている。

 この実験の特徴は、自動払い込みの仕組みを取っている点である。公共料金の場合と同じように、請求書に基づいて自動的に代金が振り込まれる。予め電子マネー用に5万円を上限として一定額を保留し、自動払い込み可能にしておくと、電子マネーで買い物をするたびに保留額の残金が減っていき、保留額が足りなくなれば、再び5万円を上限に何度でも補充できる仕組みである。公衆電話が使えるほか、JRの切符も買うことができる。大宮市内の実験では計7万枚のICカードを配布する予定。

4.VISAキャッシュ渋谷実験(SSS;渋谷スマートソサエティ)

 東京渋谷地区で、1998年7月〜1999年10月まで行われ、さくら銀行、東京三菱銀行、第一勧業銀行、富士銀行、住友銀行などの都銀、横浜銀行、平成信金などの地銀とクレジット会社6社などが参加し、VISAインターナショナルと共同で行うICカードの実用化を目指す世界最大のプロジェクト。この実験ではVISAインターナショナルと東芝が開発した「VISAキャッシュ」をさまざまな形のカードに取り入れ、2000店の加盟店と10万人の利用者に提供する。VISAキャッシュの実験としては、使いきりタイプがアトランタオリンピックの際に行なわれ、銀行キャッシュカードとの一体型としてはニューヨークのべリスマート実験で行なわれ、また、クレジットカードとの一体型としては神戸のSCJの実験が行なわれているが、今回の渋谷の実験ではそのすべてての形の電子マネーを試すことができる。また今回の実験では神戸での実験と同様にICカードを利用したクレジット処理の実験も行っている。

5.新宿電子マネー実験(NTT,日銀:電子現金実験;スーパーキャッシュ)

 東京新宿地区において、都市銀行、地方銀行とNTTにより行われる電子現金システムの実験。チリ政府との共同研究で合意している。またサイバービジネス協議会もスーパーキャッシュを利用した実験を開始する。99年2月から参加企業の社員を中心にパイロット実験を開始し、99年4月より一般参加者による実験を開始する。

 スーパーキャッシュは、NTTが開発した、ICカードを用いたタイプの電子マネー。専用端末を通じて銀行の口座からカード内に預金をダウンロードし、買い物をした分だけ店の端末に支払う方式である。パソコンに端末を接続し、インターネットを通じてやりとりすることもできる。各銀行がそれぞれ電子マネーを発行するが、複数の銀行が発行した電子マネーを互いに流通させることも可能である。

この実験では、10万枚のカードを発行する予定で、現実の店舗での「リアル実験」とインターネット上の店舗での「バーチャル実験」が行なわれる。リアル実験は新宿地区で行なわれ、小田急百貨店、高島屋、ampm、ファミリーマート、紀伊國屋書店、ビックカメラ、出光興産とコスモ石油のガソリンスタンドなどが参加する。また、公衆電話がかけられる。自動販売機や電車の券売機への導入も検討されている。バーチャル実験では、NTT、NEC、JCB、大日本印刷、凸版印刷などが運営するモールが参加する。最終的には、リアル、バーチャルあわせて約1,000店舗の参加を予定している。

6.ランドマークタワー・クイーンズタワーA

 神奈川県横浜市のみなとみらい21のランドマークタワーとクイーンズタワーAで行われている。テナント社員に電子マネーとして使えるICカードが発行されている。このカードは、両方のビルのお店や自動販売機で利用できる。また、クイーンズタワーAでは東京三菱銀行、横浜銀行のキャッシュカードと一体になったカードも発行されている。

7.大学生協

 全国大学生活協同組合東京事業連合とNTTデータ通信、都市銀行などによる実用化プロジェクト。各大学の生協でキャッシュカード一体化の電子マネーを利用できるようにする計画。現在のところ、横浜市立大学生協、千葉大学生協そして早稲田大学生協で導入されている。

 

8.つれてって

 長野県駒ケ根市で行なわれている電子マネープロジェクト。商店街で電子マネーやポイントカードとして使うことができる。また赤穂信用金庫との提携で、キャッシュカードと一体のカードも利用できる。

 

9.EMP(エレクトロニック・マーケテット・プレイス)※終了している。

 野村総合研究所、JCB、イオンクレジットサービス、日本IBMなどによって1998年 2月まで行われていた1万人規模の一般モニター実験。JCBの発行するEMP-JCBカードを用いて、三鷹駅前の実験参加店でJCBの電子マネーが利用でき、首都圏のイオングループ専門店などでは、イオンクレジットサービスの電子マネーの利用ができるようになっていた。 三鷹ではJCBカードで、イオングループでは現金で入金するようになっていた。


4-2.電子マネーの特徴・利点

 電子マネーが登場することによってどういった利点が生まれるのだろうか。

a)現金を持ち運ぶ必要がない。

b)その場で決済が終わる。

c)決済にかかわる手数料が安くなる。

d)小額の決済もできる。

e)使う人の人格を問わない。

f)購買履歴を知られることがない。

g)お釣りがいらなくなる。


4-3.電子マネーの問題点

 4-2で電子マネーの利点を挙げてみたが、まだその計画は始まったばかりである。そのため、経済的、社会的または法的に非常に多くの問題を抱えている。それらの問題を以下に挙げてみる。

a)経済的、社会的問題

 1.通貨の管理;誰がデジタルキャッシュを発行し、誰がこれを統制するのか。

 貨幣はその国の中央銀行が価値を保証して発行するが、電子マネーについてはその価値を保証してどこが発行するかなどは具体的なコンセンサスがない。また、電子マネーを貨幣として使用する際には、その価値を何らかの形で保証する必要がある。


 2.セキュリティの問題;デジタルキャッシュのセキュリティの保証

 電子マネーは電気の信号でしかないため偽造や不正使用、プライバシの侵害をされる恐れがある。この問題を解決するのに欠かせないのが暗号化技術であるが、暗号化技術と言えど絶対ではないうえ、秘匿しすぎるとかえって政府の金融管理を混乱させてしまう恐れがある。

 3.標準化の問題;デジタルキャッシュを標準化するべきかどうか。また誰が標準を決めるのか。

 現在の貨幣はその国ごとに発行し、国の数だけ貨幣がある。しかし、ネットワーク上では国境はなく、ひとつの国、地域と見てもいいのではないだろうか。そうすると多種多様の電子マネーが存在すると消費者にとっては、電子マネーごとにそれぞれの使用法を用いなくてはいけないため、転々流通性がなく、混乱を招くと考えられる。

 4.徴税の問題;どのようにしてネットワーク上の経済活動に対して税金を適応するのか。
 インターネット上では、国境を超えた取引も多々あるが、政府がお金の流れを統制し、税金を課すのも非常に難しくなると考えられる。

 5.匿名性の必要

 電子マネーの利点のところでも記述したが、電子マネーには、誰が利用したかわからなくするための匿名性が必要である。

b)法的問題。

 今までの社会に存在しなかった新しい技術や価値観が登場すると必ず法的な不備を指摘される。このことは電子マネーに関しても例外ではない。以下で、電子マネーに関係する法的問題について考える。

 以上のようなことが現段階における大きな問題点としてあげることができるだろう。今後は更なる問題が出てくると予想される。

 1.電子マネーは通貨か

 「通貨の単位及び貨幣の発行に関する法律(新貨幣法)」によると、通貨を貨幣(硬貨)及び日本銀行券(紙幣)に限定している。この法律のもとでは、電子マネーは通貨として認められない。
 また、「紙幣類似証券取締法」及び「通貨及び証券模造取締法」では、紙幣類似の作用をもつ証券の発行・流通、貨幣や紙幣などの外観を持つものの製造、販売を禁止している。 

 2.電子マネーはどこのお金か

 電子マネーは銀行を介さず、国境を気にせず自由に流通させることができる。しかしこの行為は「外国為替管理法」に触れることになる。

 

 3.電子マネーの発行場所は

 「出資法」では、不特定かつ多数の人への預金、貯金などの受け入れ、社債発行などは金融機関以外は禁止されている。この"不特定かつ多数の人への預金、貯金などの受け入れ"が電子マネーを現金に換金する行為に相当するため、現在は電子マネーを開発、研究している非金融機関の民間会社では電子マネーを発行することができない。つまり、電子マネーを発行する権利が政府が持っているのか、金融機関が持っているのか、それとも民間会社も持つことができるのかということである。


4-4.電子マネーの将来の予想

 現在の電子マネーはまだまだ多くの問題点を抱えている。しかし、このような問題点があるとしても、電子マネーを用いて行われる電子決済取引は今後ますます普及していくことは間違いないことである。最近では渋谷といった私たちにとって身近な地域で電子マネーの実験が始まった。実際に電子マネーを使って買い物をすることができるのである。  まだ実験段階と思っているうちに電子マネーを当たり前のように使う社会がもうすぐそこまで来ているのである。



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