情報融合の本質はファジィにある!

明治大学理工学部情報科学科

向殿政男

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17回ファジィシステムシンポジウム講演論文集,pp.43-44, 2001-9,ファジィ学会より

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Abstract:  Essence of information fusion will be found in fuzzy theory, in which a membership function and label of a fuzzy set correspond to semantic aspect and linguistic aspect of data, respectively. In this paper it is proposed that all multimedia information such as numeric, characteristics, sounds, and pictures will be treated uniformly, be harmonized and be conversed respectively in linguistic level based on fuzzy theory.

 


1.はじめに

 マルチメディアが喧伝されて,かなりの年月が経つ。曰く,数値情報,文字情報,音声情報,静止画像情報,動画像情報,等をデジタル化することで、同時に取り扱えるのがマルチメディアであると。確かに,最近の情報通信技術の高度化で通信路はブロードバンド化して,また,コンピュータの高速化とソフトウエアの標準化が進み,多くの異なった形式の情報を同時に高速伝送し,表示し,取り扱うことができるようになった。現在,我々はデジタル化の恩恵を受けて,従来のメディアである新聞,電話,放送,テレビ等はコンピュータとネットワークを通じて同時に統一的に利用できる方向に向かいつつあり,より高速に,より安く,より便利になるだろうという予感は,驚異的に発達したインターネット上で,日常的に実感しているところであろう。ところで,これが目指したマルチメディアなのであろうか? これはただ単に,異なった形式の情報をデジタル技術で同時に、並列的に取り扱っているだけではないだろうか。これらの各情報間の変換や意味的な連携はほとんど行なわれていないのである。本当のマルチメディアの目指すべき方向は,これらの各種の情報形態間の真の融合なはずである。それなくして,各情報形態間の変換や連携はあり得ないはずである。すなわち,真のマルチメディアとは,情報融合に本質があるはずである。その為の技術は,まだほとんど開発されていない。

 本報告では,ファジィ理論を用いて,言語レベルでこれらのマルチメディアにおける情報を統合することで,ある種の情報融合が可能であることを提案し,情報融合の本質はファジィにあることを指摘する。

 

2.ファジィの特徴

 ファジィ理論のユニークな点として

(1)近似推論,

(2)言語モデリング

(3)言語真理値

(4)大局的把握(Granularity

(5)意味と構文間の形式的な橋渡し

等々があると考えている。ここで,(5)に付いて少し補足説明をしよう。ファジィ集合は,メンバーシップ関数とラベルとの複合概念である。ラベルは記号表現であり,そのものに本来は意味はない。シンタックス(構文)に相当する。一方,メンバーシップ関数は,数値表現であり,意味内容に近い,または物理的な現実に近い表現と見なすことができるだろう。ラベルよりはセマンティックス(意味)に近い表現である。しかし,記号表現,数値表現,両者ともコンピュータで取り扱える形式的表現であることには変わりはない。この記号表現と数値表現の対応に,意味表現の本質がある。ここの対応が,意味と構文間の橋渡しであり,ミクロとマクロの橋渡しであり,かつ,この対応間に人間の主観の導入を認め,曖昧さの導入を認めている。ここに,ファジィ理論のユニークさがあると筆者は感じている。

 

3.情報融合

 人間は,文章を読んでその概要を図に描き,映画を見てその感激を言葉で表現し,音楽を聴いて一幅の絵画を連想する。これらの高度な知的情報処理が,人間の頭の中で如何に行なわれているかは不明である。しかし,少なくとも各種の情報形態で表現されている情報の中味を捉え,その意味を解釈しない限りこれらの情報形態間の変換は不可能であろう。人間は,これらのマルチメディアで表現されている形態の異なった情報を,その意味を考えて,意味のレベルで変換を行なっているはずである。その意味のレベルとはどのように表現された情報の形態なのであろうか。イメ−ジのレベルか言葉のレベルか良く分からないが,どこかで変換可能なレベルに統一的に表現していると考えられる。

 ファジィ集合の特徴の一つに,ファジィ集合は言葉と意味との両方を繋ぐ役割をしていることを紹介した。これは,メンバーシップ関数を物理的な各種の情報形態に対応させ、ラベルを言葉に対応させることで,各種の異なった情報形態で表現された情報内容は,ファジィ集合のラベルを用いて,言葉として統一的に表現することが考えられる。すなわち,ファジィ集合を用いることで,マルチメディアの情報を言葉のレベルで融合出来る可能性を示唆している。

 

4.ファジィと情報融合

 数値情報を例として,言語レベルに変換する例を示す。多くのデータを説明するのに,統計処理では,平均と標準偏差を用いて数値を用いてマクロに表現していると見ることができる(図1)。ファジィ理論では,これを幾つかの塊(granularity)として捉え,それぞれのグループをファジィ関係と見なす(図2)。よく知られているように、ファジィ関係はAiBiなるファジィルールに対応させられるので、ファジィ集合AiBiのラベルを用いることで、多くのデータの集まりは、ルールの集合として言葉でマクロに表現されていることになる。

 同様に,大量の文字情報でも音楽でも画像でも,例えばパラメータの分布を用いて,時にはアンケート調査等を用いてファジィ理論に基づいて言語に対応させることが可能であろう。例えば、音楽、画像、文章等の異なったメディアで表現された情報も、例えば、悲しい歌、悲しい絵、悲しい文章等の言語レベルで表現されれば、類似の情報であることが分かる。こうすることで,各種のマルチメディア情報は,言語レベルで統一的に表現でき,お互いの連携,変換が可能になると期待される。これは,ファジィ理論に基づいた情報融合の一例になっていると見ることが出来はずである。

 

 

図1: 統計処理に見るマクロ的把握

図2:ファジィ理論におけるGranularity

 

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