インターネットにおける知的所有権の現状

平野 淳
江本 全志
Jun Hirano
Masashi Emoto

明治大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻
情報科学系(システム科学研究室)
Graduate School of Science and Technology, Major in Sciences,
Computer Science Course, Meiji University

1. はじめに

 近年、急激に「デジタル技術」・インターネット等の「ネットワーク」が 発達してきました。それに伴い、情報・ソフトウェア(著作物)を融合した マルチメディアの出現、流通・利用、加工・送信、著作権ビジネスの拡大等が 行なわれるようになり、そこに知的所有権の問題が発生してきました。 そこで本稿では、こうした状況や問題点等をまとめ、インターネットに おける知的所有権の現状について述べます。

2. 知的所有権とは

 知的所有権(知的財産権とも言う)は、大きく分けて著作権と工業所有権に 分類されます。また工業所有権は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権・ 商号権に分類されます。そして、著作権は著作権法、工業所有権はそれぞれ 特許法・実用新案法・意匠法・商標法・商法で守られています。
 つまり、知的所有権とは、これらの権利の総称のことです。

3. インターネットと知的所有権

 ネットワークの上では、文章・プログラム・画像・音声等の様々な種類の 情報や、それらを組み合わせたものを流したり、受け取ったりします。 例えば、ホームページを作成して公開すれば、それだけで情報を流していることに なり、他のホームページを閲覧するだけで情報を受け取っていることになります。 このような情報の多くは、知的所有権の対象となっています。

 知的所有権というのは、

のことである。

そこでいろいろな疑問が発生します。

例えば、

などです。
 これらに対する単的な解答をすると、
  1. 当然ネットワークで流される情報は、明確に許可されている場合でない 限り、作者に無断で使用してはいけない。
  2. これらの情報の作者が正当に権利を登録してあれば、登録先機関 (例えば特許庁 など)において権利者を調べることができるが、大抵の場合、ネットワーク に流されている情報は閲覧している時点で作者も特定できる。
  3. 知的所有権の権利者(権利を所有している人)と交渉する際は、特別な 仲介機関というものは存在しない。直接交渉して、権利者が承諾した 範囲での使用は認められるようになる。
  4. ロイヤルティも権利者が決められるものである。権利者が「無料でこの 情報を使って良いです」と主張すれば無料で使えるし、「100万円払わな ければこの情報を使ってはいけません」と主張すればその通りにしなければ ならない。
となります。

☆ホームページと著作権
 〜どこの国の著作権法が適用されるのか

 インターネットは国境の壁のない国際的なネットワークである。仮に、 インターネットによる情報の授受をめぐって論争になった場合、どこの国の 法律を適用するべきかという点が問題になる。しかし、今日では、世界の ほとんどの国(120カ国)は著作権の保護に関するベルヌ条約というものに 加盟している。加盟各国の国内著作権法(国によって呼び方は異なる)はこの ベルヌ条約に基づいて制定されているため、著作権法に限ればほとんどの国の 著作権法に違いはないようである。

4. 最近の動向

 ここでは、インターネットにおける知的所有権の最近の動向や、新しい ビジネスの可能性、新著作権法など、具体的な事例を挙げる。

4.1. ドメイン名の新しい問題

最近の国内の状況
gTLD について

4.2. 著作権の管理業務

ここでは著作物を管理するという、近未来的なビジネスについて紹介します。

4.3. 新著作権法について

昨年6月、著作権法が改正され今年から施行された。ここでは、ネットワークに 情報をアップロードし、送受信するといった行為に絞って改正された点を 紹介する。

 はじめに、音楽を放送する時の事例や、情報をネットワーク(サーバ)に アップロードして、送信行為に至るまでの権利について説明します。これらには 共通して3つの段階があります。これまでの(旧)著作権法では、それらに 関して以下のような権利が発生していました。

A.蓄積する行為
この行為に関しては、著作者・実演家・レコード制作者(音楽の場合) のそれぞれに「複製権」が帰属していました。
B.ネットワークに接続する行為(アップロードする行為)
この行為に関しては、上記3者に対してどんな権利も発生しませんでした。
C.インタラクティブ(双方向)送信する行為
この行為に関しては、著作者に「放送権」及び「有線送信権」という 権利が帰属していました。

上記の事例に対して以下の点に関する改正がなされました。

  1. 「インタラクティブ送信」に係る実演家・レコード制作者の権利 (送信可能化権)の創設
    送信可能化権とは、勝手に「送信可能化」されない権利のことです。
  2. 「インタラクティブ送信」に係る著作者の権利の拡大
    今まで、インタラクティブ送信に関して著作者は放送権・有線送信権を 有していたが、それを「ネットワークに接続する行為」に関しても権利が 発生するようにしました。
  3. 「同一構内」でのコンピュータ・プログラムの送信に係る権利の拡大 (構内LAN送信も送信に含める)
    今まで「同一構内のみにおいて行なわれるものは有線送信に当たらない」 としていたが、改正後は「プログラムの著作物を送信する場合に限り 同一構内における有線送信に含める」と変更しました。
  4. 「インタラクティブ送信」に関する用語の整理(下図参照)
「インタラクティブ送信」に関する用語の整理・改正
「公衆送信」と「無線送信」が新たに定義された
 つまり、改正後の3つの行為に関して発生する権利をまとめると以下のように なります。

A.蓄積する行為
改正前と変わらず
B.ネットワークに接続する行為
著作者に対して「放送権」及び「有線送信権」が与えられるようになった
C.インタラクティブ送信する行為
著作者・実演家・レコード制作者の3者に対して「送信可能化権」が 与えられるようになった。また、著作者に対して「放送権」「有線送信権」が 発生することに変更はない。

5. まとめ

 今後、電子ネットワークが発展するためには知的財産権保護は不可欠なもの となっています。しかし、特別に新たな法規制を導入して窮屈なネットワーク 社会の到来を招くよりも、それを技術的に保護できる方法があれば、それに 委ねることが妥当であると思われる。
 この点で、インターネットの性質に沿った電子的著作権処理システム (ECMS:Electronic Copyright Management System) (詳細はこちら)等の 今後における進展が期待される。

【参考文献】

 本稿作成にあたり、文中からのリンク以外に以下のホームページを 参考しました。また、知的所有権に関する最新ニュースを掲載している ホームページへのリンクもここから張っておきました。

東洋大学富田徹男教授の 「 知的所有権関係」のページ
知的所有権制度史などを研究されている富田教授のページであす。知的 所有権に関する論文等、広く電子化されているので利用させて頂きました。
1998年度版 著作権法
ここでは、著作権関係法令が掲載されている。著作権法に関しては全文 閲覧できるが、その他の法令に関しては会員限定となっている。
知的財産権関連団体
特許庁、世界知的所有権機関、弁理士会、知的財産研究所など、知的財産 権に関連した団体へのリンク集のページである。
毎日新聞「超!技術事情」の知的所有権に関するページ
毎日新聞に掲載されたと思われる知的所有権に関する連載10回分を まとめてあるページ
第一東京弁護士会総合法律研究所知的所有権法研究部会のページ
ここのページの基本講座からバックナンバーの 「 知的所有権と知的財産権」のページを参照させて頂きました。
特許通」の メインページ
インターネット上の知的所有権情報に関するサーチエンジンである。
報道された 知的所有権関連ニュース」のページ
95年11月〜現在までに報道されたニュースを簡単にまとめてある ページ
ネットワーク時代の知的所有権入門」のページ
INTERNET MAGAZINEに掲載された同タイトルの連載をデジタル化したページ。 各ページに渡り、本当に参考にさせて頂きました。