第3章 暗号技術の遷移
3−4 PGPの誕生
PGPは、1991年にアメリカのフィリップ・ジマーマンによって作られ
た暗号プログラムです。インターネットによって無料で配布されたため、爆発
的に普及し、現在世界中にユーザを持つソフトになりました。
PGPの開発者ジマーマンは、もともと暗号学者ではなく、反核運動を行っ
ていました。抗議行動に参加して、逮捕されたこともあるほどの人物でした。
ところがソ連の崩壊後、軍事拡大競争が終わり、ジマーマンが政治活動する理
由も薄れていきました。
<図8> PGPの開発者
一方、電話、ファックス、電子メールと通信技術が進歩するにしたがい、こ
れらの通信が盗聴の危機にさらされるという社会問題が発生してきました。そ
して政府の政策に異議を唱える一般大衆の政治組織に対しても、国家が権力を
濫用して彼らの通信を傍受するといったことも実際に行われていました。また、
政治運動家のみならず、すべての市民のためにも暗号技術の必要性は高まって
いました。
政治活動が暇になったジマーマンは、市民のための暗号技術開発を次なる標
的に定めました。暗号技術を独学で学び、5年の歳月をかけて、ついに超一級
の暗号ソフトPGPを完成させ、PGPを無料で配布しました。インターネッ
トに流れたPGPは、こうして全世界へと広がっていきました。
ではここで、ジマーマンの開発したPGPとはどのようなものか説明します。
PGPで平文を暗号化するためには、共通暗号方式、つまり暗号化と復号化に
同じ鍵を使用する方式の一つである「IDEA」が用いられています。そして
その「IDEA」の暗号化で使われている鍵を暗号化するために使われている
のが、公開鍵暗号方式のひとつ、「RSA」です。公開鍵暗号とは、先ほど説
明しましたように、公開鍵と秘密鍵の二つの鍵を使用する暗号化方式です。公
開鍵暗号は、鍵の配布方法で悩む必要のないすばらしい方法であるにもかかわ
らず、平文の暗号化には共通暗号が使われる理由は、公開鍵暗号はスピードが
遅いため大量のデータを暗号化するのに向かないからです。そこで、ランダム
に生成した鍵を使って文章全体をIDEAで暗号化し、IDEAの鍵をRSA
で暗号化するといった方法が採られています。
<図9>PGPの暗号化、復号化の手順