第3章 暗号技術の遷移








3−3 公開鍵暗号の実現

MITでディフィーとヘルマンの論文を読んでいたのがロン・リベルト、ア ディ・シャミール、レン・アデルマンの学者3人でした。リベルト、シャミー ル、アデルマンの3人は協力して、ディフィーの考案した公開鍵暗号システム を実際にソフトにするための研究を休まず続けました。特にリベルトは、この 研究に関わる前に「ある問題を解くにはどれくらいの計算が必要か」という事 を取り扱うコンピュータ科学の分野の専門家であったため、「この暗号を解く のにどれくらいの計算が必要か」という問題は得意中の得意でした。




<図7> 公開鍵暗号の開発者達


リベルト、シャミールは理論を次々に考え、アデルマンは2人の作った暗号 理論が本当に解けないものかを厳しくチェックしました。さまざまなアイデア が検討され、ついに翌年の1976年、彼らは強力な公開鍵暗号を実現する数 学的な理論を完成させました。彼らは急いでこのアイデアを「ディジタル署名 と公開鍵暗号の実現法」という論文にまとめました。そして、ディフィーのア イデアを具体化した3人の数学者はその方法に自分たちの名前の頭文字をとっ て「RSA公開鍵暗号」と名づけました。

公開鍵実現のポイントは「一方向関数」にありました。一方向関数の例は素 数の掛け算です。「2777」と「607」を掛け合わせると「168563 9」になります。小学生にでもできる計算です。しかし、その逆に「1685 639はどんな二つの数を掛け合わせたものでしょう」と聞かれるとなかなか 答えられません。ところが鍵(ヒント)として片方の「607」を与えれば、 もう片方もすぐにわかります。この計算のしやすさとヒントが無い場合の逆算 のとてつもない難しさの差をうまく利用して公開鍵暗号が作られました。