第4章 暗号技術の現状
4−2 暗号技術の現状
1997年7月PGPが米国外で販売されました。それは、電子的に記録された
暗号ソフトウェアは武器に当たり輸出の規制対象になりますが、暗号ソフトの
プログラムリストが本として出版されたものは規制の対象にならないという法律の
抜け道をついたものでした。
また、PGPは暗号アルゴリズムにRSAアルゴリズムを使用しているため、
ライセンス問題が発生していました。そのため、PGPは米国内用のRSAREFを
使用した純正のPGPとMPILIBを使用した米国外用PGPiの二種類の
バージョンが存在していました。しかし、最新バージョンのPGPでは暗号
アルゴリズムをRSAアルゴリズムからディフィー・ヘルマンアルゴリズムに
したためライセンス問題も解決されました。
1997年9月、米議会で暗号の輸出規制を撤廃する法案が出され可決されました。
しかし、その法案は修正されたものだったため、完全な自由化ではありませんでした。
法律上、暗号は輸出する暗号の鍵のビット数に制限を加え、それをこえる
ビット数の鍵を持つ暗号は輸出できないようになっていました。
最近の話題として、クリントン政権の強力な暗号技術をどう扱うべきかについての
新しい方針を紹介します。それはおおざっぱに言えば、暗号を解読できる一種の
マスターキーを作り、これを政府機関に供託したソフトウェア会社には暗号技術の
輸出規制を緩めるというもので、事実上政府が暗号化成品を輸出する者に対して、
マスターキーの提出を要求していることになります。これが実現すれば、どんなに
強力な暗号が広まっても、アメリカ政府は正当な理由さえあれば、マスターキーを
使って通信内容を自由に覗き見することができるようになります。
この決定は、われわれ日本人にとっても重要な意味を持ちます。すでにアメリカ製の
ソフトウェアは日本の隅々にまで行き渡っており、もしマスターキーを供託する方針
をマイクロソフト社が受け入れたならば、日本人がWindowsの走るパソコンを使って
行うあらゆる通信内容は、いかに暗号化されようとも、いざというときにはアメリカ
政府に筒抜けになってしまいます。
暗号に関する問題はいまや世界レベルの問題になっています。プライバシーを守るために
完璧な暗号を許可するのか、それとも国家の安全のために誰かが解読できる暗号を
使うのか、今後の暗号ソフトウェアの動向に注目したいです。
つい最近、アメリカ政府は、暗号の輸出を完全に自由化しました。
その理由は、アメリカ国外でも暗号の開発が進み、輸出規制をする理由がなくなった
からです。
むしろ、アメリカだけが輸出規制を行えば、世界で巻き起こった暗号の販売競争に
勝つことができなくなるという状況に迫られてきたのです。