第4章 暗号技術の現状
4−3 新しい暗号方式
現在、世界で最も多く使われている暗号は、共通鍵方式ではDES、
公開鍵方式ではRSAで、どちらもアメリカの企業が開発したものです。
そして、インターネットの世界もまたアメリカが中心になっており、
アメリカから大容量の回線が世界に向かって放射状に伸びています。
そのため、例えば日本からアジア圏へメールを送信した場合でも、
アメリカ経由で目的地に達する可能性が高いのです。
このように、暗号の世界標準を自国の手に握っており、また世界の通信の
多くも自国を経由するという、アメリカの情報機関にとって極めて
好都合な状況がありました。
しかし、一方では優れた暗号技術が日本やヨーロッパでも次々に開発
されており、アメリカの情報機関が解読できない暗号システムが世界に
広がる可能性は十分にあります。
楕円曲線暗号
最近注目を集めているのが「楕円曲線暗号」(ECC=Elliptic Curve
Cryptosystem) と呼ばれる暗号システムです。1986年にアメリカの
ミラーとコブリッツがそれぞれ個別に論文を発表し、その基礎的概念を
明らかにしました。現在、事実上の標準となっているRSAに取って
代わり得る可能性が高いと言われています。
RSAは素因数分解の難しさに基づいたシステムですが、RSAの普及
に伴って素因数分解に関する研究が進み、安全性を確保するために必要
となる鍵の長さが長くなる方向にあります。それに対して楕円曲線暗号
の方は「楕円曲線」と呼ばれる方程式を解く難しさをその根拠として
おり、鍵の長さをRSA暗号より短くできることが分かっています。
現在、公開鍵暗号で世界標準となっているRSAと比較すると、暗号化
ではRSAが優り、復号化とデジタル署名に関しては楕円曲線暗号が有利
な状況であると言われています。しかしRSAは鍵の長さが大幅に伸びる
ことによって処理速度が極端に低下するというネックがあり、その点を
考慮すると楕円曲線暗号の方が将来的には極めて有望だと考えられます。
カナダのサーティコム社が、この暗号システムについていくつかの特許を
取得して一歩先んじていると言われています。
日本企業で楕円曲線暗号の製品化発表を最初に行ったのは日立製作所です。
電子決済の世界標準手順であるSETの次期バージョンを狙いに定めて
いると言われています。
量子暗号
光や量子を利用したコンピュータが実現すれば、暗号解読用鍵の割り出しは
瞬時に可能となってしまいます。この様な解読技術に対抗するためには
「量子暗号」の開発が必要です。量子力学においては、素粒子は観測を
行うとその状態が変化するから、自然な状態における観察は不可能とされて
います。この性質を利用するのが「量子暗号」です。これを用いれば、
以前に出会ったこともなく、情報を共有したこともない双方が、完全に
秘密裡に意志の伝達が可能になるといわれています。