3.1.3 マルチエージェントシステムの役割


システムの研究背景

「代理人の集まり」をシステムとしてとらえる考え方は1959年の心理学者Selfridgeによる「パンディモニアム」に始まっている。これは特徴分析を用いてパターン認識する脳の働きを上述のモデルを用いて説明している。このモデルでは、脳の多数のエージェントが協調作業によってパターン認識を行っていることを応用している。この後にも1970年代後半の、Hersay-IIのような音声理解システムがエージェント技術を応用し構築された。このシステムは「黒板システム」という画期的なシステムを採用していたが、多くの曖昧な問題点が存在していたため一般的なアプリケーションを構築することなく終息してしまった。しかしマルチエージェントシステムを考える上で、「黒板システム」は潜在的に大きな影響力を与えている。特に、複数の知識源の並列処理によって、協調的に問題を解決することは、今後も検討するべき技術の1つである。

エージェントの役割

人工知能の創設者の1人である、Marvin Minskyは、彼の著書「心の社会」で、心の働きをエージェントの活動の結果として説明しようとしている。彼がこの著書の始めにおいて、「エージェントととは何なのか?」という問題で取り上げている事項はそのままマルチエージェントシステムを考える上で重要な側面を上手にまとめている。たとえば「一人一人ではできないことでも、どうしてマルチになると可能になるのか?」や「エージェントたちに統一性やパーソナリティを与えるものは何か?」はマルチエージェントシステムを構築する上で非常に重要な問題である。

それぞれのシステムには、要求事項と満たすことのできる事項の間にトレードオフが存在する。重要なことは、それぞれのシステムが満たさなければならない事項を最大限に満足するようにエージェントの社会を考えることである。たとえば、実時間性(時間制限)を要求されるシステムにおいて、各エージェントがあまりに自由に動くことは大きな問題である。これらに対しいくつかの対処法がある。例えば、エージェントを組織体系の中に押し込めてしまったり、ある時間制限内で最適解を発見できなくても、それまでに発見した最良解を見つけるように設定することも一つの方法である。また最近のパーソナルメディアにおいて、各ユーザーの趣味や個性を理解した上で、インターネット上に存在する他のエージェントたちと協調作業をすることが要求される。そのような場合は、エージェントのパーソナリティが重要になってくると考えられる。