5−2.海外のプレゼンスプロバイダへ向かう日本の利用者



 国境や地理的制限による制約が少ない状況で、もしバンド幅などによって決まる利用環境が同様であれば、ビジネスはコストの低い場所、あるいは国々に流れていく。現在、日本国内でのIPPビジネスや情報サーバを提供しているビジネスの多くが、アメリカ合衆国などよりアクセス環境が良く安い場所を目指して移動しつつある。

 ISPの運用技術について、日本国内よりはアメリカ合衆国の方が数段優れているようである。国内のISPやIPPのWWWサーバよりも、国外の強力なWWWサーバにアクセスした方が反応が速いといった状況がある。

 ISPのサービスコストの面では、日米の間に大きな格差がある。一例として3Mbpsのサービスの場合、日本ではISPの出費だけで月額140万円強(東京インターネット(株)の場合)になるが、アメリカ合衆国では回線費用を含めて月額4,200米ドル(AlterNet−DoubleT(sm)サービスの場合)なので、格差はさらに増えることになる。また、日本では専用回線の規格の都合で最大回線速度は6Mbpsだが、アメリカ合衆国では45Mbpsまでのサービスを購入でき、その価格は月額675万円程度である。大規模なサービスを提供するIPPにとってはこれは大きなメリットになる。

 ISPの価格差、そして日本国内のネットワークの不備を考えると、IPPビジネスを本格的に始めるにはアメリカ合衆国で行うのがより現実的であるという判断が出てくる。これは、IPPが利用者に提示する価格を見ても明らかに価格差があることから理解できる。

 しかし、国際回線を利用して日本国内(および全世界)に対するプレゼンスを確保することは、技術的な面から見るとデメリットも少なくない。国際回線の伝送距離は国内のそれよりもはるかに長く、伝送遅延に伴う反応の悪さが生じてくる。また、国際回線のバンド幅を増やすことは、一国だけの意志決定でできるものではなく、技術的にも容易ではない。また、本来遠距離の回線を使わなくてもできるサービスを、わざわざ遠距離の回線を使って行うのは、資源の浪費だという考え方もある。現在のIPPおよびその利用者が海外に流出している状況は、本来ならば日本国内のインターネット基盤を整備し、コストを下げて太刀打ちできるようにして改善しなければならない問題だと考えられる。