xDSLの問題点

 
 
 
 

伝送距離、標準問題

   xDSLの問題点の一つに、伝送距離があげられる。xDSLでは周波数の高い信号線を伝送するため、ノイズに弱く、伝送距離による信号の減衰も大きい(図参照)。一般に、ADSL技術を使って1.5Mビット/秒の伝送速度(下り方向)を確保できるのは最長5.5km程度といわれている。この結果、米国ではADSLの利用を想定した場合、利用可能なユーザは8割弱となる。NTTがADSLを前向きに検討してこなかった理由の一つでもある。ただ、米国では他にもケーブルモデムや衛星といった選択肢があるため、使えないユーザがいても仕方がないと割り切ってしまっている。 
   また、モデム同士の相互接続性にも問題がある。同一メーカの製品同士でしか通信できないのが現状である。信号の変復調方式,CAP(*1),DMT(*2)の2種類があり、どちらが今後の主流になるかは、まだわからない。
 
 
*CAP(Carrierless Amplitude/Phase Modulation): 
xDSL技術が取り入れ ている変復調方式の一つ。V.34モデムなどが採用しているQAM(quadratureamplitude modulation)を ベースにしており、上がりと下りの信号に一つずつの搬送波(キャリア)を持つ。ADSLではこのCAPを採用したモデムの製品化が 先行している。 
*DMT(Discrete Multi-Tone): 
xDSL技術が取り入れている変復調方式の一つ。変調するデータ量を4kHzの帯域ごとに割り振ってデータを送受信する。 ノイズがある周波数帯域に割り当てるデータ量を減らすことで、ノイズに強いデータ伝送が可能になる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

干渉問題

   本格的なxDSLサービスの提供開始にNTTが踏み切る上で最大の問題はISDNの信号とxDSLの信号が相互に影響し合うことだ。64kビット/秒のISDNも通常の電話と同じ銅線の回線を利用しており、同じケーブル内を通る。その上NTTのISDNが使う周波数帯域は、xDSLサービスの周波数帯域と重なっている(図参照)。ADSLの信号強度が最大-40dBmであるのに対して、日本のISDNは最大-34dBm程度であるため、ADSLはISDNからの干渉を受けやすい。 
   その点に対してNTTは、xDSLの予備的実験を行った。その結果xDSL回線はISDN回線にあまり影響を与えないが、ISDN回線はxDSL回線に干渉するというデータが得られている。同一カッド内だけでなく隣接したカッド、一つ飛ばしたカッドでも、干渉するという(図参照)。 
干渉を避けるために、ISDNとxDSLの回線を離れたカッドに収容することは、作業の手間から考えて難しい。
 
NTTが公衆電話網に使用している回線の断面
 
 
 
 
 
 
 
 
 

プロバイダと電話会社

   xDSLによるインターネット接続サービスを提供するには、回線を提供する電話会社とインターネット接続サービスを提供するプロバイダは、xDSLでは電話局側にプロバイダが用意するモデムやルータなどの機器を設置する必要があるため、密接に協力していかねばならない。プロバイダは電話会社のビルのフロアを借り、機器の設置やメンテナンスを行わなければならない。しかし、日本では、両者がこのような関係を維持していく指針が決まっていない。例えば、電話回線と共有しているxDSL回線をスプリッタで分ける際の工事は電話会社なのかそれともプロバイダなのか、問題が発生した時にはどちらが責任を持つのかといった問題である。 
   またプロバイダにとっては、NTTに合わせる以外にないところもある。 
NTTの立場では、変復調方式や伝送速度の異なるxDSLモデムをプロバイダが勝手に電話回線につなぐことは、音声電話やISDNのサービスに影響を与えるため、簡単には認められないだろう。プロバイダは結局NTTが指定するxDSLモデムを使うしかないだろう。