2ー1.移動体通信(内山,渋谷,安田著)

明治大学大学院・情報システム特論


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目次:
1.はじめに
2.移動体通信とは
3.移動体通信網基本技術
4.携帯端末の現状と最新技術
5. これからの移動体通信について
6. まとめ
7. 参考

1.はじめに


ここ数年にわたり、我が国は高度情報化社会へと進展し、通信ネットワークの大容量化、高品質化への需要は高まっている。
特に、移動体通信分野の発展はめざましい。携帯電話やポケットベルなどは、小型化、軽量化に伴いユーザーは急増した。
「いつでも、どこでも」通信を可能とするためには、無線技術を用いた移動体通信は必要不可欠であり、マルチメディア通信の実現には、更なる大容量化が絶対条件である。また、国際的には、IMT2000の実現に向けて研究活動が活発に行われている。
移動通信の発展
1980年代にサービスが開始された。その時点では、アナログ技術が用いられていた。1990年代に入り、アナログコードレス電話はPHS、アナログ自動車電話は携帯電話に発展していった。ディジタル技術の発展と共に携帯電話も小型化、軽量化され、今では国民の4人に1人は携帯電話又はPHSを持つまでに普及している。現在はIMT2000に向けて各種研究が行われている。

2.移動体通信とは


2.1 移動体通信とは



移動体通信は無線による情報通信で、無線技術を使って携帯端末と通信を行うものである。双方向通信には携帯電話などの音声通信サービス、単方向通信ではポケットベルを代表するページングサービスがある。

2.2 なぜ電話線がなくてもつながるか



普通の電話機には電話線が接続されているが、携帯電話には当然、電話線は接続されていない。PHSや携帯電話は、声などの情報をいったん電気に変え、それを電波に乗せて送っている。送信側では、音の強弱の波と搬送波を重ね合わせて送信する。また、受信側では、送られてきた電波のうち、搬送波を取り除き、元の音の強弱の波に戻している。
電波のしくみ

2.3 携帯端末



 移動体通信に用いるツールも,様々なものが考えられる。ここでは,その幾つかを紹介します。

・携帯電話
・PHS
・ポケットベル

・衛星通信
 赤道上空36,000Kmの円軌道を,地球の自転速度と同じ24時間で回っている静止衛星を利用したもの。代表的なものにナビゲーションシステム(GPS)等。

・携帯情報端末(PDA)
主人の活動を専属秘書のように働き,助けてくれるディジタル情報端末。 個人スケジュールや手書きメモ,各種データの検索などの機能があり,もちろん通信機能もあるので,データ通信やFAXの送信等も行える。

・モバイル・コンピューティング
 移動端末を用いて任意の場所から情報処理業務を行うこと。 携帯電話やPHS,PDA,ノートパソコンを用いる。

3. 移動体通信網基本技術


ここでは、携帯端末がいつでも、どこでも通信できるための基本通信技術を解説する。
位置登録 1. 位置登録

各携帯電話は、電源ONと同時に自分の位置を常にホームメモリーに登録している。したがって、この位置登録が場所にいると、「圏外」となる。
一斉呼び出し 2.一斉呼び出し

着信があると交換機はホームメモリーを参照しする。位置登録ゾーン内の全てのアンテナは携帯電話を呼び出す。携帯電話の応答があると通話可能となる。
通信中チャンネル切り替え 3.通信中チャンネル切り替え

携帯電話がゾーンβからゾーンαに移動すると、ゾーンβから受信する携帯電話からの電波が弱まり、ゾーンαから受信する携帯電話からの電波が強くなる。ある時点を境にゾーンの切り替えを行う。これによって、移動しながらの通信が可能となる。

4.携帯端末の現状と最新技術

4.1 PHS(Personal Handy-phone System)


 アナログ式コードレス電話をディジタル化したもの。端末出力は現行のコードレス電話と同程度の10mW以下だが,1つの子機端末から複数の無線基地局(親機)にアクセスできるのが特徴。このため,屋外に基地局を設置したPHS公衆サービスに加入すれば,携帯電話のような使い方もできる。また,オフィス・ビルの各部屋や廊下に基地局を設置すれば,ビル内のどこを移動しても通話が可能なシステム・コードレス電話としても利用できる。つまり,1つの端末を家庭などではコードレス電話,オフィスではシステム・コードレス電話,屋外では簡易な携帯電話というように使い分けることができる。

4.1.1 PHSの現状


 PHS限界説の根拠となっている事実の一つに加入者の減少があるが,これは代理店への販促費を削ることで,PHS事業者が意図的にやったものと言える。まずDDIポケット電話が販促費を切り下げたことから加入者が減り始め,この2月に下げ止まった。販促費削減が遅れたアステルは加入者の減少傾向も遅れて現れている。とはいえ,PHSの事業方針に転換が必要なことは事業者自ら認めている。今後の展開を楽観できないことは確かである。例えば,現在のPHS利用の中心は深夜の住宅地。しかしPHSは住宅では主にコードレス電話として使われると想定していたため,住宅地への基地局増設は追加投資の重い負担となる。こうした事情もあり,各社は最近「ディジタル・コードレスの原点に戻り,安い携帯電話の位置付けをやめる」と言い始めた。しかし,ユーザーの認識を変えるには時間がかかる上,コードレス電話では事業収入にならない。結局は携帯電話と同じ土俵で勝負することになろう。事業方針の転換は簡単には進まない。

4.1.2 PHSの技術


 現在,公衆PHSサービスでは,32kビット/秒のデータ通信が可能。無線区間では電界強度の変動などでデータ誤りが発生するため,誤り検出・再送のための伝送制御プロトコルを組み合わせて使う。これには「PIAFS」と呼ぶ業界標準と,「LAP-P」というDDIポケット電話の独自プロトコルがある。

・PIAFS (ピアフ)

 : PHSを使った32kビット/秒の非制限ベアラ伝送によるディジタル・データ伝送方式の業界標準規格。PHSインターネット・アクセス・フォーラムが,1996年4月に標準化した。モデムの規格同様,PIAFSに準拠した通信アダプタ間での伝送制御手順(データ伝送時のフレーム・フォーマットや誤り制御方式など)を規定する。ビット誤り率が0のときの実効速度は29.2kビット/秒に達し,ディジタル携帯電話の9600ビット /秒の約3倍と高速である。PIAFSのパケットは640ビットの固定長で,このうち伝送制御用に56ビット,ユーザー・データは残りの584ビットの領域に格納する。このため,最大実効速度は29.2k ビット/秒である。

PIAFSに関する参考URL: http://www.infopro.or.jp/piaf/j/menu.html

4.1.3 次期データ通信プロトコル


 NTTは,PHSで64kビット/秒のデータ通信を可能にする伝送制御プロトコルを開発した。97年11月末に無線通信の国内標準化団体である電波産業会(ARIB)が決めた仕様と組み合わせて使う。実用化時期は2000年ころの見込みであり,無線のPHSでも有線のISDN並みの高速データ通信が可能になる。64kと32kビット/秒の通信方式では,無線区間で利用する通話チャネルの数などが違う。しかし「今回開発した伝送制御プロトコルは,パケットのフレーム構成などは PIAFSの仕様を継承したため,PIAFS対応機器と対向させて29.2kビット/秒のデータ通信もできる」(NTT)。NTTは今回,2種類の伝送制御プロトコルを開発した。一つは,58.4kビット/秒が得られるもの。もう一つは,最大57.6kビット/秒ながら,電波が弱い場所でも実効速度が低下しにくいものだ。ともに,PIAFSと互換性がある。 64kビット/秒通信の実現には,PHS事業者が無線基地局を改造する必要がある。NTT中央パーソナル通信網は,「基地局のソフト変更だけでは済まないので,時間やコストがかかり,すぐには対応できない。サービス提供は2000年ころになるだろう」と見ている。

PHSに関する参考URL: http://www.nttphs.co.jp/chuo/news/news.htm

4.2 携帯電話


 無線を使うことで,歩いたり車で移動しながらでも継続して通話を実現することができる移動通信サービス。隅なくエリアをカバーできるように無線基地局を設置していくと,ちょうど無線ゾーンの広がりが細胞(セル)状にみえるため,セルラー電話とも呼ばれる。日本の携帯電話は有線系のネットワークとは独立して構築されている。ネットワークは無線基地局,電話制御局,電話交換局といった具合に階層構造になっている。電話交換局で有線ネットワークの交換機と接続されている。携帯電話から無線基地局にアクセスすることで一般電話や携帯電話と通話が実現できる。携帯電話で通話している途中に別の無線ゾーンへ移動しても,制御局が追跡交換し連続通話が可能。日本のアナログ携帯電話には,NTT方式とTACS方式(モトローラ方式)がある。NTT方式はNTT移動通信網(NTTドコモ)グループと日本移動通信が提供し,TACS方式はDD I系セルラー電話と日本移動通信が提供している。日本移動通信は1994年3月,米モトローラ社との民間合意により,TACS方式の拡大に投資をつぎこむ方向になった。一方,ディジタル方式はPDCという1方式だけだが,上記通信事業者に続いてデジタルホンツーカーの両グループが1994年に参入した。95年7月にはPHS公衆サービスも始まった。一般に携帯電話では異なる方式の無線基地局に技術的にはアクセスできない。このため,たとえばTACS方式の携帯電話機をNTT方式の無線基地局を使うサービスで利用することはできない。NTTのムーバやモトローラ社のマイクロTACといった携帯電話が関心を集め,現在では携帯電話が主流になっている。ディジタル携帯電話に,これまでのTDMA方式に加え,CDMA方式のサービスが加わる。DDI系のセルラー電話グループは,まず関西セルラー電話が98年4月にサービスを始め,99年春までに全社でサービスをスタートさせる。関東・東海地域では日本移動通 信が99年4月にサービスを始める。セルラー電話グループと日本移動通信は互いにエリアを補完し合うローミングで全国規模のサービスを実現する。


4.2.1 ディジタル携帯電話


 無線周波数を変調する際に制御信号だけをディジタル化しているアナログ携帯電話の方式に対し,通信内容(音声など)もディジタル化して伝送する携帯電話システム。ディジタル化によって@秘話性の確保,Aデータとの親和性の向上,B周波数の有効利用などが可能となる。このため世界各国でディジタル携帯電話システムの開発が活発に進められている。 欧州では各国の主管庁,メーカーが参加するETSI(欧州電気通信標準化協会)のGSM (global system formobile communication)部会が,また米国ではTIA(米国電気通信工業会)がスペックを決め,ともに92年から商用化に入った。 日本は米国と同様な3チャネル多重のTDMA方式,モトローラ方式のコーデック採用ということでPDC(personal digital cellular)規格(正式名称はRCR STD-27)が固まった。1993年3月からNTT移動通信網が商用サービスを開始した。関西セルラー電話などセルラー電話グループ3社(DDI系),日本移動通信(IDO)も続いた。また,新規参入のデジタルホン・グループ(日本テレコム系),ツーカー・グループ(日産自動車系)が1994年4月から順次それぞれディジタル・サービスを開始した。周波数は800MHz帯(800〜830MHzおよび940〜960MHz)と1.5GHz帯(1429〜1525MHz )。データ通信サービスは,NTT移動通信網が95年3月から伝送速度9600ビット/秒で提供していたが,97年3月には既存の網を使って28.8kビット/秒で伝送できる,パケット交換サービスも始まった。米国で実用化されているCDMA方式が,日本でも98年4月以降実用化される。セルラー電話グループ各社が99年4月までにサービスを開始,日本移動通信も99年4月にサービスを始める。両グループは相互に補完する態勢を整える。


4.2.2 TDMA


 移動通信におけるアクセス制御方式の1つ。例えば衛星通信では一般に,散在する地球局が衛星の中継器を共用して通信を行う。TDMA(時分割多元接続)方式は,各地球局から送出する信号バーストの送信タイミングを制御し,中継器上で各信号が互いに重ならないように調整する。TDMA方式は従来のFDMA(周波数分割多元接続)方式に比べて,各地球局への回線割り当てに柔軟性があり,衛星電力を有効に利用できる。地上系の移動通信サービスであるディジタル携帯電話でも使われている。


4.2.3 次期通信方式-CDMA方式


 CDMAとはCode Multiple accessの略で符号分割多元接続のことである。この方式はアメリカのQualcomm社が北米のディジタルセルラー電話の標準方式として提案し、1993年7月に米TIA(米国電気通信工業界)で採用された。
導入理由としては以下の4つが挙げられる。
・固定電話に近い(肉声に近い良質の通話品質)を維持できる
・周波数利用効率が高い
・設備コストが低い
・高速データ通信に適している
  CDMA方式では1.25MHzという広帯域無線信号を使用するため、高速データ通信に対して柔軟な対応ができる。つまり多数のチャネルが同じ周波数を使用するため、比較的容易に高速データ通信に対応できる。また、初期システムにおいては、14.4Kbpsのデータ伝送が可能であり、64Kbps以上においても市場のニーズに対応するために、段階的な機能拡張が可能である
音声品質

固定電話に近いを維持できる

 最新の音声処理技術を採用しているため、音声品質に優れている。 また、1.25MHzという広帯域無線信号の特性を生かし、移動無線通信で問題となるマルチパス伝搬を克服することができる。つまり従来のシステムでは、反射等によって遅れてくる信号(マルチパス成分)混信などの要因となり、その結果通信品質を劣化させていたが、CDMA方式では広帯域な無線通信の特性により、パスダイバシティ技術と呼ばれる、マルチパス成分を逆に利用する技術によって通話品質を向上させることができる。 また、移動しながら通話するには通信する基地局切り替えるハンドオーバー機能が必要である。従来までは周波数が異なるために、ハンドオーバー時に周波数を切り替える必要があり、通話が途切れたり、切断されたりすることがあったが、CDMA方式では同じ周波数を使用するため、同時に複数の基地局と通信することができ、ハンドオーバー中にも安定した通話をすることができる。
周波数効率

周波数利用効率が高い


 従来の方式では各々の基地局がそれぞれ異なった周波数を使用していたが、CDMA方式では同じ周波数を利用するため、周波数効率が高くなる。 また、移動機が通信状態にある時、音声のある時にだけ無線信号を送信するためより多くのユーザーを同時に収容することができる。
設備コスト

設備コストが低い


 CDMA方式は既に世界各国の移動体通信で利用されており、システムの大量生産が可能であり、また同時に複数の基地局を利用することができるので、1つの基地局のサービスエリアを拡大することにより基地局を削減して、設備コストを削減することができる

携帯電話に関する参考URL:
http://www.nttdocomo.co.jp/
http://210.130.160.74/ntt_docomo/ntt_car/index.html
http://www1.mediagalaxy.co.jp/ido/release/release.html

5. これからの移動体通信について


・IMT2000

 次世代の移動通信技術として「IMT2000 (International MobileTelecomunication 2000」がITUで取り上げられ、粗の標準化交渉が国際的に進展してきている。IMT2000 は特に次の4点を目標に開発が進められている。 1.固定網と同等の品質の確保。 2.パーソナル端末までを含む各種端末の提供。 3.国際ローミング。 4.衛星通信との共存。 これにより、マルチメディア移動通信のサービスが期待される。使用場所は住宅地域、オフィスビル、歩行中、飛行機や列車などの交通機関の中などを想定していて、各使用場所でのインターフェースを標準化し、国、地域、メーカーを超えて相互通信可能とする。

・IMT2000の課題


 IMT2000では、周波数帯に1.9〜2.2GHz帯が予定されている。高品質な動画伝送を実現するためには更なる高速大容量伝送技術が要求され、必要とする周波数帯域もさらに拡大し周波数資源の不足は深刻になることが予想される。 このため周波数有効利用技術として、高能率符号化、適応変復調、ダイナミックチャネル割当など、あらゆる角度からの検討が重要である。

・IMT2000の無線方式標準化プロセス


 標準化については、現在ITU-R(国際電気通信連合-無線通信セクタ)のTG 8/1 (Task Group 8/1)で検討されている。各国の通信事情の違いから議論がなかなか収集しなかったが、99年末までに標準化仕様を定める計画が合意された。98年6月がその募集提案の締切となっている。標準化には多数の国のキャリアやメーカーの推奨が重要となるため、日米欧で開発と共に仲間づくりが盛んに行われている。 現在、日本ではW-CDMA方式を、米国ではCDMAとTDMAなど複数の方式を、欧州ではGM Sを呼ばれる既存のネットワークを利用した方式を検討している。

・Wideband cdmaOne


 ITU(国際電気通信連合)が標準化を進めるIMT-2000に向けて,米国のメーカーなどが中心に提案している広帯域CDMA(codedivisionmultiple access)の方式。既存のCDMA方式であるcdmaOneを広帯域化する。  CDMAと基本的な技術は共通だが,最高2M/bpsの高速データ通信が可能である。広帯域CDMAにはこのほか,NTT移動通信網やKDDなどが独自の案で取り組んでいる。

6. まとめ


 移動体通信を代表する携帯電話やPHSの通信方式と,次世代通信方式を紹介した。次世代通信方式では,現在の方式よりも高品質な通話,大容量のデータ転送が可能となる。また,国際間の通信も可能となるため,移動体通信の「いつでも,どこでも,誰とでも,どんな情報でも」を実現できるようになる。しかし、これらの実現には標準化の確立が必要不可欠である。

7. 参考


このページを作成するにあたって以下のホームページ等を参考にしました。より学びたい方はどうぞ。
(以下のURLはすでに無効になっていることがあります)

http://www4.nikkeibp.co.jp/CSG/
http://emnsn9.nkgw.elec.keio.ac.jp/EESL96/Lecture1025/index.html http://emnsn9.nkgw.elec.keio.ac.jp/EESL96/Lecture1101/index.html
http://www.nttdocomo.co.jp/
http://www1.mediagalaxy.co.jp/ido/release/release.html
http://www.nttphs.co.jp/chuo/news/news.htm
http://www.infopro.or.jp/piaf/j/menu.html
”手にとるように通信ネットワークがわかる本”,NTTグループネットワーク研究会
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