4-2 進む情報の個別化
中所ゼミナール
責任者:横沢隆紀
参加者:五十嵐圭、品田浩、神農弘一、杉戸勇太、
田中永、鳥光那美、西祐一郎、菱沼健太、吉田和晃
- まえがき
我がソフトウェア工学研究室では、情報化社会の未来と課題を考えるにあたって、テーマを国家と個人とした。この理由は自分たちが社会生活を送っているこの日本において、国家と個人は最大の枠と最小の枠だからである。情報化社会の未来をマクロな視点とミクロの視点から捉えてみた。
- 導入
80年代末から爆発的に普及した携帯電話は、現在個人が持ちうる情報端末のうち代表的なものである。当初、アナログとしてスタートした携帯電話は、90年代に入ると膨大に膨れ上がったユーザに対応する為に、通称第2世代と呼ばれるデジタル携帯電話へと進化したのである。これが現在、私達が使用している携帯電話の主流で、さらにNTT−DOCOMOが提供する次世代携帯電話サービスFOMAを筆頭とする、第3世代携帯電話へと時代は向かいつつある。
爆発的に携帯電話が普及するとともにノートパソコンやPDAが普及した現代に登場するこの第3世代携帯電話は、モバイル・コンピューティング時代に相応しい要求条件が課せられた。新たな携帯電話は、インターネット接続端末としての機能や、さらなるデータ通信速度の高速化が期待されたのである。
現在、この第3世代携帯電話サービスの1つであるFOMAを例に挙げると、高速データ通信による動画配信など、まさにその機能を満たしている。
こういった流れを汲んでいくと、未来の情報化社会においてはやはり個人ごとに特化した情報配信が行われるのではないかと考えられる。高度な機能を兼ね備えた持ち運び可能な情報端末を国民一人一人が所有し、その端末に向けて個人ごとにカスタマイズされた情報が配信されるのである。
配信される情報の種類として考えられるのは、テレビや映画などの動画配信(もちろん、現在の動画配信よりもはるかに高画質・高音質のものであろう)といった娯楽的なものから、動画を組み込んだ新聞等やニュースといった社会情報、さらには国や地方自治体といった公共機関から個人宛ての情報配信など、多種多様のものとなるだろう。
さらに、この未来の情報端末が、現在の携帯電話がさらなる進化を遂げたものである可能性は非常に高い。なぜなら、新たに技術を一から開発するよりも現在ある技術および施設のグレードを上げる方が楽だし、何よりも普及している携帯電話という端末がそのまま進化することによって国民の中に浸透しやすいと予想されるからだ。そして、その情報端末に備えられるべき機能としては、まず現在の第3世代携帯電話を遥かにしのぐ高速データ通信が必須である。個人ごとにカスタマイズされた情報等、どんなに優れたソフトを用意してもそれを生かせるハードがないと意味が無い。具体的には、配信されうる情報量や重要性を考えると、自動車など高速移動時にも最低500kbs程度の速度は確保されるべきだろう。
また、この未来の情報端末において必ず付加されるもの、それは個人情報であると予測することができる。実際現在においても、携帯電話、PDAを例にとってみればその媒体自体、複数の人間で使用する場面にほとんど直面することはない。つまり、以前よりもパーソナル化が進むということである。当然その情報端末には個人情報が含まれるようになってもおかしくはない。銀行の口座番号、暗証番号など様々な個人情報が埋め込まれることで、それを日常生活において利用していくことも予想される。現在、ブルートゥースなどでも、自動販売機との通信により自動的に携帯で飲み物を購入することができることから、より個人個人の生活に欠かせない存在になっていくに違いない。これを利用すれば、携帯を用いたATMでの口座引き落としも可能になるだろう。
しかし、このように様々な利点を挙げることはできるが、逆に欠点、問題点になりそうなものも挙がってしまう。それを下記に箇条書きにしてまとめる。
- 問題点、課題
@通信経路の確実性
未来の携帯電話を例に挙げてきたが、パソコンで考えてみると、ADSLでは局の範囲にいながらも安定した速度が出ない例が数多く存在する。これはネットワーク、通信経路の安定性が欠如しているからである。有線ならともかく無線を利用しているものは、もっと深刻に考える必要性がある。
Aセキュリティ問題
個人情報が埋め込まれれば、その使用する個人しか認証できないようなセキュリティが当然必要になる。個人情報が漏洩するような、端末であってはいけない。ハッキング、ウイルスに関しても、同様に考える必要がある。ここから先、技術が進めば携帯などにもハッキングができる可能性がでてくるためである。
B年齢などによる情報格差
現在インターネットや携帯電話を利用する人間の大多数がやはり若者である。この点から考えれば、老人・病人・ケガ人・身障者など端末を使用しづらい人にはどのように利用してもらえばいいかを考える必要がある。実際、若者のシェアが大きいと見てしまうとこのような問題から目をそらしがちになってしまう。
C配信情報の飽和
望んでもいない情報が配信されてくる可能性も否めない問題である。身近な例で言えば、規制が厳しくなったスパムメール、広告などである。このようにいらない情報をあらかじめ排除するシステムも必要になってくる。自分に有用、必要な情報を区別するシステムも同様なものと考えることができる。
- 問題の解決方法、見通し
@通信経路の確実性
通信経路に問題がないか詳細に業者がチェックする他は方法が存在しない。実際、利用者の立場としてこの問題にあたったとき、利用者は何もすることができないためである。もしも、このような問題にあたった場合は早急に業者がチェックできるようにする柔軟性、対応能力が重要視されてくる。もしくは、情報端末と基地局との間でバックグラウンドで自動診断するという方法も考えられる。
Aセキュリティ問題
まず、この問題を解決する案として出てくるのはどのように個人認証するかということである。その一つにバイオメトリクスというものを考えることができる。声紋、指紋などは人間が生まれながらに持ち、かつこの世に一つしか存在しないものである。認証の確実性を高める方法である。これなら、携帯電話などサイズの小さな媒体であっても、不正アクセスの防止にもつながる。ウイルスの点では、現在JAVA対応の携帯などが数多く出てきていることからも十分に注意が必要である。対策用ソフトウェアを携帯にも使用できるようにする必要がある。
B年齢などによる情報格差
実際、万人に使用してもらう際、考えることができるのは使い方が簡単であれば利用する人も多いということである。その端末を利用する人が店員や係員などに難しい設定などは行ってもらい、使用するときになるべく機能などを意識することなく使用できるようなGUIなどに工夫を施すなど、万人に対象を向けて製作を考えるというのが大事になる。
C配信情報の飽和
一つ考えられるのは、エージェントシステムである。エージェントに必要な情報、不必要な情報を学習させることで、その配信されてくる情報を識別できるようになればよい。エージェントがフィルタの役割を担うということである。
- 考察、意見
今、上記で述べてきたように利用者側というよりむしろ開発側、業者側がもっとしっかりと現状の問題点を洗い出す必要性というものが見えてくる。セキュリティの面が特に重要な問題である。『セキュリティ保険のようなものがあるといい。』という意見があった。しかしこれに対し、『保険というのは被害を受けたあとに有効になるものである。その被害というものの区別が付きにくいという問題が浮かび上がる。例えば、友人に端末に入っている情報をわざと盗ませて被害を出し保険金を騙し取るということもできるし、それに相応する金額というものもどれくらいなのか決めるのも難しい問題である。もし、そういった保険会社ができたとしてもメリットというものがあまり見られないと言うのが現状ではないだろうか。』という意見や、『この保険ビジネスが成立するためには、まずそれを証明するために法的機関が発展する必要がある。警察などがネット犯罪をしっかりと識別できる状態にあり、かつそれを証拠として抑えられるような法的整備を考える必要がある。』という意見もあった。このセキュリティ保険の規範がまだまだできあがってないというのが現状である。
配信情報の飽和を防ぐ規範として必要・不必要な情報を分けるのと同様に、情報のカスタマイズが非常に有用になるだろう。時としてなんでもないような情報が非常に強力な武器になってしまうこの世だからこそ、こういった機能などの必然性は言うまでもない。ある程度でも、フィルタをかけないとこちらからの情報も時には脅威となってしまう。
もう一つよく議論された内容が、『一つの端末に、そんなに多くの情報を詰め込んでいいのだろうか。その端末に依存しすぎてしまい、端末を狙った犯罪が激増するだろう。よほどちゃんと本人しか使えないような機能があるならいいのだが。』という意見である。反対派としては、『結局は利便性のみを追求すると1つの機器にどこまで機能を集中できるかが重要なのだ。』という意見が出た。これはかなり難しい問題である。利便性と安全性は反比例してしまうので、どこで線を引くかが重要であろう。
そういった見直し、考察により利用しやすく、信頼度のおけるシステム構築が今の課題になっていくと考えられるのではないだろうか。
- あとがき
技術が発展する一方、それに反するようにハッカーなどもそれに挑戦しようとする。ADSLの近隣ネットワークを使ったハッキング、ウイルスも同等である。ウイルス対策は誰かが犠牲になって初めて行うことができるものである。今、新種のウイルスが次々に発見されているのはこのような犠牲の結果ほかならない。このように、利便性と安全性の境界というものがこれからの技術発展の大きな鍵を握るものであると感じる。