2-5 情報システム部門のこれから
荒川ゼミナール:
参加者:米田 弘,保科陽介
- はじめに
企業におけるコンピュータ導入が始まったのは、1960年代である。このころの情報システムは、大量の事務処理を省力化、迅速化、効率化するためだけのものにすぎなかった。そのため、この時点において、企業における情報システム部門は、全体的な事務作業の機械化推進と適用業務システムの構築,運用に力を入れていた。このときはまだコンピュータを使えるのは専門家だけであり、情報システム部門以外のほとんどの部門は素人であった。業務部門(ユーザ)は、自分たちの業務効率だけを意識した注文を出し、それを情報システム部門が実現するというものであった。この情報システムは「部分最適」の集合であった。また、経営側からは、業務の効率化については、それなりの評価を受けたが、その他については否定的であった。
しかし、企業経営において1980年代以降、情報システムの地位は良くなったといえる。企業が競争に勝ち残るためには、ITによる競争で優位に立つことが必要であると考えられるようになってきた。
この流れの中で、情報システム部門に対する経営側の要求も大きく変わってきた。経営戦略の一環となったため、情報システム部門は部分最適の適用業務システムを作っているだけでなく、経営的視点から会社の情報システム全体を最適化し推進していかなければならなくなった。つまり、今までのシステム開発代行業に加え経営に直接寄与するようなことまで求められるようになったということである。大きく変わったために情報システム部門と、経営側や業務部門(ユーザ)との間には理想と現実の差から苦労しているというのが情報システム部門の現状である。
- 未来の予想、予測
ここまでで述べてきたことをふまえて、これからの情報システム、そして情報システム部門がどのように変わっていくのかということを考えていきたいと思う。
まず、情報システムだが、これは資金を最適な経営資源に投下し、高い利益を上げつつ、効率的に資金を回せるかという経営課題に対応して、今までの「部分最適」な情報システムを、この経営課題に合わせたシステム(「全体最適」な情報システム)へとしていく必要がある。いろいろな情報システム、すべてが「全体最適」な情報システムの実現のため統合情報システムへと集約されていくだろう。しかし、企業が独自に、このようなシステムを作り出すことは難しいだろう。なぜならば、開発の人材やコストの問題があるからだ。この問題を解決するものとしてERPが利用できるだろう。だが、ERPはこの問題を解決する以外にも多種多様の大きな効果が期待されている。
- ERPとは
ERPとは、簡単に言えば企業の業務・運営の情報システム(例えば、会計管理・営業管理・資材管理などのシステム)をひとつのパッケージソフトとして、企業(ユーザ)に提供するというものである。企業は、このパケージソフト(ERP)を自社の情報システムに導入しようとしている。このERPの導入には失敗も多く、課題が残る。しかし、メリットも数多くあるのが現状である。
- ERPの課題・メリット・デメリット
ここでは、ERPの効果・課題をメリット・デメリットとともに考えていきたいと思う。
1、システム開発・保守コストの低減
今までの「部分最適」な情報システムでは、古い情報技術の上にプログラムを足していきつぎはぎだらけのプログラムが維持されている。そのため、システム部門は大量のバロックを抱え,保守負担が大きいわりに、満足したシステム機能が実現できていなかった。代わりに一からシステム全体を作り直すことは多くの時間とコストを必要とするため問題になっていた。しかし、ERPは、既に出来あがっているものであるから、新しい情報技術やグローバル標準の業務機能がたくさん組み込まれているため、システムの長期的な柔軟性・拡張性などが図られている。よって、システムの開発,・保守コストの低減ができる。
だが、企業の業種や業務により、必要となるシステムの機能は多種多様である。ERPでは、多くの機能を組み込むことはできるが、どの企業に対しても必要な機能が組み込まれているようにすることは難しい。これは、特定の企業にとって必要な機能は、多くの機能の一部にすぎなかったり、求める機能がなかったりする場合も考えられる。また、ERPは必要のない機能とともにブラックボックス部分が存在するため、ユーザ企業が保守するのに困難であるという問題もある。これは、システムの機能を細分化をして、各企業が必要な機能だけを集めて組み合わせていくようにすれば解決できるのではないだろうか。
2、システム構築期間の短縮
既成のERP製品では、今までの作りこみの情報システムで必要だったプログラミングが大幅に削減でき、また、業務モデルのテンプレートを活用することにより、設計段階の削減も可能になる。ERPを活用すればシステムの構築期間の短縮ができるであろう。
それから、製品サイクルの短縮など経営環境の変化のサイクルが短くなるため、企業経営の俊敏性と、業務支援の情報システムの構築速度が求められるだろう。
しかし、ERPを利用して基幹業務システムを構築する場合でも、1で延べた課題と同様に足りない機能を付け加えて開発をしたとした場合、ERPを利用せずに構築した場合より構築期間が長くなってしまう可能性もあるであろう。この問題の解決策として、ERPをシステム基盤として、特定の業務や機能向けのパッケージ製品をこれに接続する。情報システムをひとつの部品として、組み合わせていくことで解決できるのではないだろうか。
3、計画・管理レベルの向上
ERPシステムの実現によって、業務情報の統合が行われ、製品・製造拠点が違っても共通の仕組みで情報が収集されることにより、企業全般にわたって統一的な計数管理が行えるようになるだろう。
また、リアルタイムな情報を利用した分析により、正確かつ迅速な経営判断が可能となる。そして、統合データベースを利用すれば企業の経営資源の迅速な再配置といった計画業務を行うことができるだろう。今後利益を生まないと予測される事業を打ち切り、その経営資源を成長事業に投資するといったことである.
しかし、ERPシステムは業務の支援をするシステムに過ぎない。計画・管理レベルを向上させるには、ERPにより収集・蓄積された情報を有効に使いこなせる組織の仕組みと、関係者のIT人材の育成が欠かせない問題である。
解決策として、情報システム部門で人材の育成を行うことである。日本の企業の特徴でもある、人事ローテーション制度を利用し、情報システム部門での業務経験をキャリアパスに組み込んでいくことにより、会社全体の情報リテラシの向上やITスキルの養成が実現できるのではないだろうか。
- 情報システム部門のあり方
このような、ERPを利用することにより、情報システム部門のあり方も変わってくるだろう。今までのように、経営に利用できないシステムから経営にも利用できるシステムへと変えるために経営のトップと下でシステムの構築ができるようになるべきである。
また、自社のシステムだけを扱うのではなく、自社の開発で培った技術を利用して子会社として独立し会社の拡大もできるのではないだろうか。
以上で述べてきたように、これからの時代は、業務の巨大化、複雑化・情報技術のものすごい速さでの発展しているため、企業は競争に勝ち抜くために、各企業それぞれに合った情報システムの改革、または大幅な変更を早くに行うべきであろう。また、そうしなければ生き残ることができないだろう。