2-4 企業が今やるべきこと
林ゼミナール:
責任者:宇野 聡
参加者:石川 貴由、小林 靖明、阿部 淳平
企業において情報システムは、大量の事務処理を迅速かつ効率的に行うために必要と
されていた。コンピュータが導入され始めた頃から情報システムは存在していた。その
頃の情報システムは、事務作業の機械化推進などに力を入れていた。しかし、当時はま
だコンピュータの普及率が乏しく、コンピュータを扱う人々は専門家集団と見られた。
そこでユーザー達は自部門だけの業務効率化をはかるような注文を出した。そのため、
情報システム部門はコンピュータ上で実現する、といった関係が自然と成立した。した
がって、情報システムは部分的に最適なものの集合であったと言える。また、業務の効
率化についてはそれなりの評価をされていたが、経営上の意思決定支援機能について欠
けるところがあるとされた。
ところが、近年では企業経営における情報システムの地位は劇的に向上した。企業活動が国際化し多角化するようになり、長期的で複合的な企業戦略が重要になってきた。80年代半ばには、それまでの経営情報システムを発展させて、企業戦略を支援するシステムとして戦略的情報システム(SIS)というコンセプトが使われるようになってきた。また企業にとって基幹システムを効率的に利用するために、90年代に入ってから登場してきたのがEPGパッケージである。EPGの基本コンセプトは、経営資源の有効活用と経営の効率化である。海外で生まれたものであり、日本にはあまり馴染まなかったという面もあったが、パッケージをカスタマイズし、導入企業の業務プロセスにマッチさせるという手段をとることで、次第に導入が進むようになってきている。また、最近では日本製のEPGパッケージも登場するようになってきている。
このような流れの中で、情報システム部門に対する期待や要求も大きく変わってきた。
「ITは経営戦略の一環」とされたために、それまでのような部分的に最適なものの集
合ではもはや評価されなくなった。むしろ逆に、全体の情報システムを統合し、全体の
最適化を推進することが本来の使命ではないか、と言われるようになった。もともとは
特殊な専門家集団と見られていた情報システム部門が、経営に直結するところまできた
わけである。つまり情報システム部門の現状とは、経営トップと業務部門(ユーザー)
の間にはさまれ、理想と現実のギャップから自己の独自性を模索していると言えるので
はないか。
さて、以上の歴史を踏まえ、これからの情報システムおよび情報システム部門はどう
なっていくのか、考察してみたい。
まずは、情報システムの今後についてだが、これは一つの大きな流れに集約されて
いくのではないかと考えられる。まずは高い利益を上げるために、最適な経営資源に
投資し、そしていかに効率的に資金を回すか、だ。それが重要な経営課題となるだろう。
このような経営戦略の変革に対応し、これまでの部分的最適型の情報システムを、新し
い経営戦略に合わせて最適化していく必要があるだろう。
また、情報システム部門のあり方について、いくつかの方法が考えられる。まずは、
情報システム部門だけを別会社とする方法である。いわゆる基幹系システムの設計・開
発・運用部分を対象とする場合と、情報化戦略の企画立案も含めた全面的な権限を委ね
る場合がある。次に、業務の面で評価できるが、経営にはどうか?と言われたことから、
業務にも経営にも役立つシステムへと変革を遂げるために、情報システム部門自体を経
営トップにより近いところへ位置づける、という考え方である。もう一つは、IT人材
の育成である。ITが経営戦略の武器であるのなら、ITスキルは情報システム部門だ
けの特殊スキルではなく、すべてのビジネスに携わる人々にとって必要なスキルである。
そうだとすれば、これからの情報システム部門は、IT人材を育成し輩出する部門とな
るだろう。
その中でも、情報化リーダーの育成は極めて重要である。情報化リーダーの主な役割は、会社の経営戦略を理解し、IT戦略を明確に提示でき、業務革新を推進し、情報化の推進をリードし、経営者層及びエンドユーザー部門層との積極的なコーディネートを行うことである。
中堅・中小企業では情報化などに多くの人材をかけることが難しいため、一人で何役もこなさなければならない。また、大企業のように何層にもわたる指導管理者がいるわけでもなく、社長・役員の直下でその意図を理解し、何にも臆せず調査立案をし、多くの人に変革内容を理解させ、行動に向けてリードしていかなければならない。そのため、最低限、会社の組織、業務の全般知識、改革の進めかた、分析・立案の技法を知っている必要がある。
中堅・中小企業における情報化担当責任者の役割は、一部の先進企業を除いて、業務別システムの開発・導入による省人化、個別業務のスピードアップや正確性の確保などが主要な任務となっている。その大きな原因は、資金的に困難であり、そのためコンピュータ、通信機器、システム開発にコスト的に大きな制限があることである。また、情報化担当者も十分には配置できず、その役割もいわゆる機械化に限定されていることが多かった。
そして、通信コストの低下などにより、中堅・中小企業においても、一連の付加価値創出プロセスをシステム化対象にしたり、外部とのデータの相互交換もできるようになった。
一方、中堅・中小企業の経営者も、得意先からのデータ交換の要望も強くなり、新しい商売の出現を目の当たりにし、コストの低減の要望に応えなければならない環境となり、情報化への認識が高まってきた。経営者の要望に応え、IT環境の好転を活用するために、従来の情報化担当責任者の役割は変わらなければならない。情報化リーダーが求められるときである。
情報化戦略についても、情報システムの3年周期の更新を基準に中期経営戦略に沿う形で策定される。しかし、近年はこの更新サイクルを1年にするような情報化投資に積極的な企業も現れている。
こうして策定された情報化戦略を構築する役目が、情報化リーダーである。
また、日本企業の特徴でもある、ゼネラリスト育成のための定期的な人事ローテーション制度を生かし、情報システム部門での業務経験をキャリアパスに組み込めば、全社的な情報リテラシの向上やITスキルの養成が比較的スムーズに実現するのではないか。
ここでは3つほど方法を挙げたが、まだ他の考え方もあるだろう。とにかく、この厳し
い時代に競争力を強化するためには、企業の特質や体力に応じた方法による改革に、早
期に着手するべきであろう。
- 考察
21世紀のビジネス戦略のキーポイントには、他に、顧客情報を活用することも挙げら
れる。国内企業が情報先進国の欧米諸国の外資系企業と競争するためには、企業内の情
報や顧客の情報を収集し、よりよい情報システムを作る、そんな企業がビジネスの成功
を収めるだろう。