1-1 情報化社会の未来と課題(家庭について)
高木ゼミナール:
責任者:北川 寛
参加者:天住 貴子、井上 達生、川端 健太、川端 貴幸、池田 康臣、大道寺 聡、富山 友恵、丸田 央、村井 創
- 導入
インターネットの普及に代表されるように、10年前に比べて社会は大幅に情報化されたと言える。しかしこれからの10年では更に驚異的なスピードで変化していくだろう。変わっていく分野は多々あると思うが、ここでは家庭における情報化について述べていきたいと思う。
- 未来の予想、予測
これから社会が情報化するにあたって、まず考えなければならないのが情報インフラの整備である。大容量でデータをやり取りできる環境が整ってこそ、次世代の情報化社会がやってくるのである。現在少しずつ整備されている情報インフラも、10年後には過疎地を含めた全ての地域に光ファイバー等の超高速インターネット網が設置されるだろうし、個人が所有するモバイルコンピュータにおいても、高速移動中に動画を受信できるほどの通信が行えるようになるはずである。これにより家庭、ともすればモバイルにまで映画が配信される可能性がある。あらゆる場面で情報の送受信を行える世界になったとき、家庭にはどのように変化が起きているのだろうか。
まず考えられるのが『ホームネットワーク構想』である。これはテレビやコンピュータはもちろん、AV機器や冷蔵庫といったあらゆる電化製品を情報化して繋げてしまおうという発想である。このように家庭内が情報化・ネットワーク化されることにより、多くのメリットが考えられる。
外出先からの家電の操作もその一つである。家庭内を結ぶネットワークはインターネットを通して外部と繋がるため、モバイルコンピュータから風呂やエアコンの設定、録画予約や冷蔵庫内の確認などが可能となる。帰宅前に指示を出すことで、家に着く頃には全てが快適な状態になっているのである。更に屋内に設置されたカメラの画像を受信することで子供の状況把握や侵入者のチェックも行えるようになる。
家庭内の家電の機能もネットワーク化に伴い大きく変わる。その中で全ての家電の中心と成り得るのがテレビである。現在でもデジタルテレビによって放送とインターネットを融合し、より高度で多様な双方向サービスを得ようという試みはなされている。しかしその機能は更に高まり、ハードディスク内臓受信機を使ったデータ蓄積型テレビとなることで、リアルタイムで放送を見ていなくても情報を欲しいときに引き出せるようになる。番組内で気に入った物や購入したい商品があれば、そこで初めてインターネットに接続して調べる、購入するといったことが可能となる。つまりテレビが家庭と外界を結ぶ窓の一つとなるのだ。テレビのリモコン・画面を利用することにより、ネットバンキングや行政サービスの享受、英会話や料理教室といった教育・趣味の各分野の追求も容易に行えるようになるのである。冷蔵庫の管理する食材データを参照することで、食材やレシピを調達することも出来る。測定した健康データや患部を写した映像を送れば、ネットワークを通じて医師の診察を受けるといったことも可能となる。家庭内でのテレビの役割・存在意義は根本から変わっていくと言えよう。
また映像や音楽、新聞や書籍も情報として配信されるようになる。大容量の通信が可能なので、家庭内にデータを保存しておくのではなく大規模なデータベースを人々が共有するといった形になるかも知れない。いずれにせよ本やCD、ビデオを整理する棚がいらなくなるので家庭内の省スペース化が期待できる。
『ホームネットワーク構想』と連動させて考えるべきものとして家庭内データベースの構築が挙げられる。先述したような音楽・書籍・映像データの保存以外にも、家族の病気やアレルギーなどの健康データや食事における好み、最近の献立などをデータベースとして保存しておくことにより、空気洗浄などの室内環境の設定やカロリー・栄養のバランスを考慮したレシピの配信を行ってくれるようになる。家庭内の情報化によって人間の変わりに作動するシステムも誕生するだろう。具体的には雨を感知して洗濯物を取り込んだり、雨戸を閉めたりする機能などが考えられる。
ここまでは情報化による多大な恩恵について述べてきたが、社会が大きく変われば当然そこには幾つかの問題も付随してくる。以降で、想定し得る問題点とその解決策について記していく。
- 問題点・課題とその解決法・見通し(その1)
コンピュータが人々の生活に浸透するに連れて深刻化してきたのが『デジタル・ディバイド』の問題である。簡単に説明すると、所得・年齢・居住地域・教育レベル・健康状態などの差異を要因として生じる情報通信機器・ソフトの利用機会の格差や操作レベルの格差のことである。この問題は生活環境が情報化されるに連れて所得格差、就業格差、教育格差など様々な問題を発生させる原因となる。現代は情報機器による恩恵を受けられなくても大きな支障なく生活することが出来る。しかし10年後はどうだろうか。先にも述べたように普段の生活にも情報化の波が押し寄せてくれば、あらゆるところで情報と接することになるのである。そうなったときにこの格差は致命的な問題となるだろう。
では、どうすればこの格差を埋めることが出来るのだろうか。現在利用したくても利用出来ない人たちは、今後の情報化で利用機会を増やすことが出来るようになるだろう。問題は情報機器を敬遠している人々である。コンピュータや携帯電話は慣れた人には非常に使い易いものだが、普段使わない人にとってキーボードや小さいパッドは親切なインターフェースではないのである。そこで誰もが使い易いユニバーサル・インターフェースを開発すべきである。現在使われている技術でユニバーサル・インターフェースになる可能性を秘めるのは、タッチパネルや音声認識などであろう。これらの技術は難しい操作を必要としないので、認識の精度などの基本性能を向上させれば、十分未来のインターフェースとして利用できるであろう。また、ジェスチャーや表情を用いた空間認識の技術もこれから活用されるようになるだろう。特にキッチンや風呂など、手が汚れたり離せなかったりする場合にこの技術は有効である。
- 問題点・課題とその解決法・見通し(その2)
社会の情報化と切っても切れない関係にあると言えるのがセキュリティに関する問題である。
物理的なセキュリティについては、指紋・声紋・網膜を利用した鍵、モバイルでの侵入者のチェックなどのメリットが考えられるが、データのやり取りに関するセキュリティについては問題が増えていくだろう。個人のデータや、音楽・映像に代表される著作物など、ありとあらゆるものがデータ化されるので複製や加工は行い易い。確かに情報に関するセキュリティを万全にすることは不可能である。しかし、データの送受信の際には指紋等を用いて個人の証明をするなど、ディジタルとアナログを上手く利用した認証システムを利用することである程度の安全は確保されるのではないだろうか。
- 問題点・課題とその解決法・見通し(その3)
家電がネットワーク化され、人々が今以上に依存するようになれば、当然故障したときの影響も大きくなると思われる。また、ウィルスなどの侵入によって全ての機能が停止することも考えられる。
しかし、家庭内機器がネットワーク化されるということはむしろ都合のいいことではないだろうか。家庭内・外がネットワークによって繋がれることにより、新しいメンテナンス方法が誕生するであろう。現在のメンテナンス方法を見てみると、ユーザが何らかの不具合を認識した時点で販売店、あるいはサービスセンターに連絡して対処するというのが一般的である。このように機器の不具合が顕在化してからの対処では、修理に対するコスト、期間が大きくなりがちである。また、メンテナンス業者としても修理依頼を受けた段階では不具合の内容、原因を把握することが出来ず、依頼元の訪問、必要部品の手配、再度訪問しての修理作業、といった手順を踏まねばならず、修理期間が長くなりがちである。仮に不具合を起こした機器が生活に不可欠だったものであった場合には、修理可能であっても廃棄し、新たな機器を購入しなければならないといった事態も十分に考えられる。しかし、ホームネットワークの実現により、サービスセンターと家庭内ネットワークを結びつけることで機器の動作状態を監視し、機器の異常の早期発見、異常個所・異常原因の自動特定も可能となる。
PCなどが各機器を一括に管理する形態をとると、PCがウィルスに感染した場合に打つ手はない。しかし、それぞれの機器がお互いを監視することで、感染した機器をネットワークから一時的に切り離すことも可能になるのである。もちろんその為には規格を統一することが前提となる。
- 考察
これからの情報社会は、いつでもどこでも誰とでも情報のやりとりが出来る社会になってくると予想される。そうなると必然的に場面場面で使う情報端末が違ってくるはずであり、家の中ではテレビやコンピュータ、外出先では携帯電話やその他のモバイル機器、車の中ではまた異なった情報端末が存在する。といった具合に、その時々で使い勝手の一番いいものを使うようになるだろう。特に家電のネットワーク化による影響は大きく、在宅勤務や家事による負担の軽減などが実現され家族が家の中に揃う時間が増えるであろう。
- あとがき
以上述べてきたように、これからの社会は情報化によって更に便利になることは必至である。しかしその反面、誰とも会わずに生活することも可能になると言える。情報化に向けて前を見るだけでなく、人と人との繋がりや、少しくらい不便さを残すことも大事なことではないだろうか。情報化によって本当に大切なものを失っては意味がないのだから。