VoIPの最先端 〜IP電話について〜
石畑ゼミナール:
責任者:新堀善丈
参加者:韮澤和哉、鵜澤秀明、中溝私歌、五十嵐 篤史、八住雄太
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導入 〜VoIPとは? そしてその利用先は?〜
VoIPはVoice over Internet Protocolの略で、「ボイプ」とか「ブイオーアイピー」などと呼ばれています。VoIPは音声をIPパケットに変換し、インターネットやイントラネットなどのTCP/IPネットワーク上で扱う技術のことです。
VoIPの技術を用いることで、IP網を使って音声通信を実現できるため、離散的な情報であるデータと連続的な情報である音声という異なるメディアの統合が期待されています。
VoIPの基盤となるIP網は、あらかじめ送り先までの通信回線を設定せず、送りたい情報をパケットにまとめ、パケットごとに宛先をつけて送るコネクションレス型のネットワークで、リアルタイム性を問わないインターネット接続において急激に発展してきました。最近、企業においてインターネットの普及が進み、多くの企業でIPを利用した様々な
ネットワークが構築されていますが、このようなネットワークの大半は、既存の内線電話網とは別に構築されています。よって、コスト削減の観点からこれらを統合して一つのネットワークとして扱うことのできるVoIPが注目を集めているというわけです。
IPネットワークであるインターネットを使って音声通信ができるということは、
これまで電話通信事業者によってサービスされてきた電話通信網を使わなくても
通信可能であるということになります。日本国内ですと市内通話は従量制なので、
市内通話と市内のプロバイダに接続する通話料金は同じになります。
しかし、国際電話を初めとする遠距離通話を考えてみると、世界中どこに電話をしても市内通話料金で掛けられるということですから、従来とは比較できないほど
利用料金を安くできるメリットがあることがわかると思います。
今回は、現在最も注目を浴びていると言ってもよい、このVoIPを利用した音声通信、
すなわち「IP電話」についてのレポートをしたいと思います。
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VoIPの最先端技術「IP電話」
さて、導入で述べたとおり、VoIP技術の登場でスタートしたIP電話ですが、
まずはその発展経緯を追ってみることにします。
(1) PC-to-PCタイプのIP電話サービス
IP電話(インターネット電話)が最初に登場したのは1994年頃であり、一部のコンピュータ愛好者の間で使われ始めたものでした。利用形態としては、インターネット上にダイヤルアップ接続したパソコン間で音声メッセージをやりとりするものであり、双方のパソコンに同じソフトウエアをインストールし、かつ、同時にパソコンをサーバに接続していなければならないという制約がありました。
(2) PC-to-PhoneタイプのIP電話サービス
1996年頃には、パソコンから一般加入電話にも電話をかけることができる(一般加入電話からパソコンへの接続は不可。)、いわゆるPC-to-PhoneタイプのIP電話が登場しました。このタイプのIP電話の登場により、接続先の対象がパソコンユーザから一般加入電話のユーザにまで拡大し、また、予め双方で約束しておかないと通話したい相手と接続できないというPC-to-PCタイプのIP電話の不便さを解消することができました。
このタイプのIP電話は、接続先とゲートウェイ(従来の電話回線と、IPネットワーク間の変換を行う)との距離が近いほど電話網における通話料金を抑えられることから、サービス提供事業者は、各地にゲートウェイを設置し、相手先の電話番号から通話料が最も安くなるゲートウェイに自動的に接続するシステムを構築しました。これにより、通話料金を安くおさえられるという理由から、広く一般に普及するようになり、IP電話のサービス形態の主流となったのです。
(3) Phone-to-PhoneタイプのIP電話サービス
1997年頃になると、インターネットの両端にゲートウェイを置いた一般加入電話相互間の接続サービス、いわゆるPhone-to-PhoneタイプのIP電話サービスが提供されるようになりました。このタイプのIP電話サービスも、PC-to-Phoneタイプと同様に、インターネットを利用することにより、特に、長距離電話、国際電話の通話料金が格安で提供されたことから、パソコンを利用しない一般のユーザからもIP電話に対する関心が高まりました。
インターネットを中継網に用いるインターネット電話サービスについては、
既存のインターネットのアクセスポイントにゲートウェイを併設するなどして、比較的容易に提供できることから、多くのISP事業者が参入しました。しかしながら、インターネットのトラフィック状況によりパケット遅延やパケット損失等が発生し品質が安定しなかったため、通話料金を安く設定していてもユーザが満足する品質を確保することができず、固定ユーザを満足に確保することができませんでした。このことから、いくつかの事業者は、品質を確保するため、専用のIPネットワークを中継網に用いてサービスを提供するようになりました。
4) Phone-to-PhoneタイプのIP電話サービスの発展
1998年頃になると、電話網とIPネットワークとのゲートウェイが大規模化し、
大手中継系通信事業者が中継網としてIPネットワークを利用するようになったり、
また、共通線信号網と接続することにより、一般加入電話の任意のユーザが、特別な接続手順を必要とせず、一般加入電話にかける場合とまったく同じようにIP電話サービスを利用することができるようになりました。
5) そして現在 IP電話サービスの動向
最近におけるDSL、ケーブルインターネットなどIPネットワークへの
ブロードバンドアクセス網の普及を背景として、こうしたIP電話サービスを提供又は提供を予定している事業者が増えてきており、国内においてIP電話サービスを提供している事業者数は、381社となっています(平成13年3月)。
具体的なサービス形態としては、DSLやケーブルインターネットなどの常時接続を利用したIP電話端末から一般加入電話に接続するPC-to-Phoneタイプと同一事業者のIP電話端末同士で通話が可能なPC-to-PCタイプのサービス、及び両方を提供するサービスが主流となっているようです。
また、導入当初のIP電話と比べ、ブロードバンド化、専用網の整備、VoIP技術の発展等により通話品質はかなり向上されており、さらに、常時接続環境下であれば、IP電話端末で着信も可能です(ただし、現状では、一般加入電話からの着信は提供されていない。)。また、IPネットワークに直接接続することが可能なIP電話機も現れ、ユーザの利便性も向上しています。
今後、常時接続型のIPネットワークへのアクセス回線が一般家庭に更に整備され、IPネットワーク技術の発展により他事業者のIPネットワークとの相互接続が可能となれば、より多くのIP電話サービスのユーザとも通話できるようになり、IP電話サービスはますます普及・促進することが期待されるでしょう。
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「IP電話」の課題点
当面は既存の電話網と相互接続された多様なIPネットワークが共存することが想定され、これらが互いに接続したネットワークにおいてIP電話が提供されることが予想できます。
このような状況下では、ユーザは、番号等によってIP電話であることが認識できるようになっていなければ、固定電話とIP電話の違いを意識することはなくなってくるものと思われます。さらに、IP電話の普及に伴い、パソコンに代わってIP電話専用端末の利用が増加することによって、IP電話から発信するユーザも、使用する電話がIP電話なのか固定電話なのかを認識することができなくなってきます。
したがって、既存の電話網とIPネットワークが相互接続された環境下においては、ユーザは、発信先の電話番号が異なる場合以外には、相手先の電話がIP電話か否か、あるいは中継ネットワークがIPネットワークであるか否かに関わらず、固定電話と同等のサービスが受けられることを期待して利用するものと考えられるのです。
他方、IPネットワークを利用した高度な音声サービスの展開が想定されますが、発信者、受信者側の双方がサービスを利用するための機能、設備を備えている必要があることから、当面は特定のユーザあるいはユーザ間でのサービスに限られるものと思われます。
次に、サービスの質の問題です。現行の電気通信事業法に基づく技術基準においては、電話の品質に関する基準を定めています。しかしIP電話は、従来の電話回線ネットワークと異なり、端末1台毎に専用の回線を持っていないため、パケットの揺らぎと損失が顕著に現れるため、同時に多くの利用者が使うことで、伝送途中にあるパケットが予期せず待たされたり、さらに混みあってくると破棄されたりして、音の変形や欠落を発生させます。
また、それだけでなく、多様な品質や機能を備えて展開されることが考えられるため、電話の品質に関する技術基準の見直しを含め、IP電話の品質の考え方をとりまとめる必要があるのです。
さらに、ライフラインの問題があります。
従来の電話機、特に受話器にコードが付いているタイプ(コード付き電話機)では、
受話器をつなげているコードの他には電話線だけをつなぎます。
最近は、コードレスやファクシミリ付きが増えてきましたので、ACアダプタや電源につなぐ電話機が増えましたが、コード付き電話機では不要です。PCを初めとして電気機器には電源が必要です。電話機では、電話機が電話線を経由して接続している交換機から給電を受けています。オフィスで使われている電話機はビル内の交換機から、一般家庭では近所の電話交換局に設置されている交換機から給電されています。
局用交換機は、通常自家発電設備を備えています。そのため、自分の家のブレーカが落ちて、テレビが使えなくなってしまっても、電話だけはつながります。
それ故、災害を含めた緊急時の連絡にも使うことができます。これは、電話端末が独立した製品ではなく、交換機に接続された端末として発展してきたからです。
VoIPでは、端末はデータ通信用のネットワークにつながっていますが、
このネットワークには様々な機器が接続されること、ネットワークの構造が一様でないことから、一般に給電をしていません。よって、端末とその周辺が停電になってしまうと、
通信が全くできなくなってしまいます。これは、パーソナル・コンピュータと同様に
独立した端末としてネットワークに接続されることが前提になっているためです。
これは解決策として、端末に対する給電機能を備えたネットワーク機器が登場してきています。
また、一般加入電話と同様に発着ができるIP電話サービスとするためには、IP電話端末に接続するための番号が必要であったり、また、IP電話端末に接続するためには、電話番号から実際のルーティングに必要なIPアドレスへの変換が必要となるのに、複数の事業者のIPネットワークが相互接続された場合には、IPアドレスへの変換及び変換情報の管理に関して、事業者間で共通のスキームの検討が必要となります。
本格的なIP電話サービスを展開するためには、技術基準及び番号について早急に検討することが必要不可欠だということです。
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考察 〜VoIPと「IP電話」の今後の予想〜
IP電話は述べてきたとおり、メリットもあるが様々な問題点があり、
普及にはかなりの時間を要するでしょう。しかし、VoIP技術の進歩、ブロードバンドの拡大により、着実に広がってきています。
ある企業では社内において完全にIP電話へ変換することで約70%の通話料の削減に成功したという話もあります。まずは特に比較的IP電話を利用しやすい企業での、早い段階での広がりが予想されます。
いつか通常の電話回線が使われなくなる時代がやってくるかもしれません。