BSデジタル放送のサービス




1. 編成サービス


 2000年から始まるBSデジタル放送では、新しい放送の編成サービスが可能となります。

 これらは、運用規定でそれぞれのサービスの具体的な振る舞いを定めるとともに、

 必要となる送出信号や受信機機能を具体的に規定することにより、初めて可能となりました。

 ここでは、「臨時編成サービス」「マルチビューテレビ」「階層変調サービス」

「緊急警報放送」について解説します。


■臨時編成サービス
 臨時編成サービスとは、本来の編成チャンネルはそのままにそのビットレートを減らして

 新たに一時的な編成チャンネルを設けるサービスです。 例えば、ハイビジョン(HDTV)で

 放送中の野球中継が延伸した場合、HDTVのレートを減らし、新たに設けた標準テレビ(SDTV)

 のチャンネルで野球を継続放送します。 この場合、HDTVの画質は通常時より多少損なわれ

 ますが、次の定時番組をそのままHDTVで放送することができます。

 図1のように、臨時チャンネル開始時には、HDTV番組内のスーパー、アナウンス等によって

 受信者に知らせ、HDTVを視聴し続けるか、またはSDTVを選局するかは受信者の選択に委ねますが、

 臨時チャンネルが終了した際は、本来の編成チャンネルであるHDTVに自動的に戻ります。

 また、録画の場合は、予約時の設定により臨時チャンネルに移った野球中継を

 そのまま継続録画(リレー録画)することも可能です。

 このサービスを実施する場合、HDTVとSDTVに割り振るビットレートの割り合いで

 両者の画質が変わります。 両者の画質をどのようにバランスを取り送出するかが課題です。



図1


■マルチビューテレビ
 通常HDTVで放送されているチャンネルを最大3つのSDTVに分割して、1番組内で関連する

 内容を同時に複数のチャンネルで放送するアプリケーションをマルチビューテレビと呼びます。

 具体例としては、ゴルフ中継などで、総合チャンネル(メインチャンネル)/17番ホール

 (サブチャンネル-1)/18番ホール(サブチャンネル-2)などの運用が考えられます。

 この時、マルチビュー番組開始は総合チャンネルですが、その後視聴者により

 メイン/サブチャンネル間の切替が自由にできます。 また、マルチビュー番組終了時には

 サブチャンネルからも自動的に次番組のHDTVに移行します。 録画の場合、現行のアナログ

 VTRではメインチャンネルのみの収録となりますが、将来のデジタルVTRでは全チャンネルの

 収録ができるものも登場するかもしれません。

 マルチビューテレビはスポーツ番組のほか、劇場中継、ドラマなどに応用でき、視聴者の

 選択の幅を広げたり、新しい情報提示ができる可能性があります。一方、各視聴者が異なる

 見方をしているため、番組内容によっては制作する側の意図や情報が完全に伝わらない場合

 もあり、そのことを制作時に十分考慮する必要があります。



図2


■階層変調サービス
 衛星デジタル放送では、大雨が降ると電波が弱くなり急激に映像・音声が遮断(映像はフリーズ、

 音声はミュートなど)することがありますが、通常の変調方式(高階層)に加えて

 降雨に強い変調方式(低階層)で同じ番組を平行して送ることにより、降雨時にも情報を提

 供することができます。ただし低階層では、降雨に強い反面、伝送できる情報は少なくなり

 、必要な情報のみを送ることになります。 例えば図3に示すように、通常はHDTV映像だった

 ものが、降雨時は粗い映像、縮小された映像、あるいは静止画などになります。

 受信機は、受信状態を判断してこの階層間の切り替えを自動(または手動)で行います。

 音声についてはデータ量が少ないので、低階層で送ることができます。

 しかし、低階層で多数のデータ放送番組を送ることはできないので,

 緊急報道など重要な番組のみが送られることになります。



図3


■緊急警報放送
 BSデジタル放送における緊急警報放送は、次の2つの機能が考慮されています。


 1.緊急警報放送の信号により、電源オフ(スタンバイ)状態の受信機の電源をオンして

  緊急警報放送を視聴できるようにする。


 2.番組を視聴中に緊急警報放送が開始されたら、

  自動的に緊急警報放送チャンネルに切り替わる。


 ただし省エネルギーを国策的に推進しているため、標準的な受信機では 1. の機能は含ま

 れないと予想されます。 また、 2. の機能では、自動的に緊急警報放送チャンネルに

 切り替わるのは、NHKのHDTV、 サイマルキャストされるS1、S2チャンネルのいずれかを

 視聴しているときのみです。 他の民放のチャンネルを視聴中にNHKが緊急警報放送を実施しても、

 NHKには切り替わりません。


2. 電子番組ガイド(EPG)


 2000年から始まるBSデジタル放送では、電子番組ガイド(EPG)機能をもつ受信機が登場します。

 EPG機能によって、現在放送中の番組のタイトルや出演者などの情報を見たり、番組の放送予定や

 紹介文などを読んだりすることが可能となります。 また、EPGに対応した受信機やVTRでは、

 録画予約などもテレビの画面を通して簡単に行えるようになります。

 こうしたEPG機能は受信機が独自の機能として提供するものです。

 これを実現するために、放送局が個々の番組のタイトルや放送予定時刻などの「番組配列情報

 (SI: Service Information)」と呼ばれるデータを放送し、受信機がそのデータを用いて

 番組表を作成したり、機器制御を行ったりします。 それぞれの受信機メーカーは放送局から

 送られてくるSIを用いてEPG画面や操作方法に工夫を凝らすことができます。


■全局SIと各局SI


 各放送局が自局の番組配列情報しか放送しないとすると、

 受信機はチャンネルを次々と変えて各局の情報を集める必要が生じます。

 それでは受信者側に対して、時間も手間もかかることになります。

 そこでBSデジタル放送では図4に示すように、各放送局の番組配列情報を一度SI集配信センターに

 集めて、全ての放送局のチャンネル情報、番組情報をまとめた後、各放送局に分配します。

 これを全局SIと呼びます。 これにより、どの放送局のチャンネルを受信しているときでも、

 全ての放送局のチャンネル情報、番組情報を受信できることになります。 さらに、全局SIは

 すべてのチャンネルで送ることを考慮して、番組タイトルや放送予定時間などの必要最小限の

 情報に制限しています。

 テレビ放送では各放送局の8日分の番組情報を送ることになっています。

 各放送局は全局SIに加えて、自分のチャンネルの中で、個々の番組のより詳しい情報や

 8日以上の番組情報を送ることができます。 これを各局SIと呼びます。

 各局SIの番組詳細情報として例えば、「おしらせ」「番組内容」「出演者」「原作・脚本」

 「監督・演出」「音楽」「制作」などの項目があります。 受信機は、これらの各局SIも

 EPGとして表示することができます。



図4


■シリーズ予約


 大河ドラマや朝の連続ドラマのようなシリーズものの番組を一括して視聴予約したり、

 録画予約することが簡単にできるようにする必要があります。

 そこで、運用規定では番組のシリーズの簡単な情報を全局SIの中で送ることができるように

 定めています。 シリーズの情報としては、シリーズID、シリーズ名、話数、総話数、

 シリーズ番組の有効期限などを送ります。


■EPGにより期待される機能


 リモコンの番号ボタンによらない画面メニューからのチャンネル選択

 流動編成にも対応した番組予約視聴(録画)

 シリーズ予約視聴(録画)

 映画だけの番組表など、ジャンル別の番組検索

 出演者名など、各種索引からの番組検索


 これら以外にも種々の機能が期待できます。


■デジタル化による映像の高画質化


 BS放送のデジタル化は2000年秋に打ち上げ予定の新しい放送衛星(BS-4後発機)によって実現される。


 現在行われているBSアナログ放送は、


 NHK → BS1

   → BS2

   → ハイビジョン


 WOWOW(含 セント・ギガ)


 の4チャンネルである。


 これがBSデジタル放送になると、上記チャンネルの他に加わえ、民放キー局や

 他の新規事業者の参加等で多種多様なチャンネルが提供される予定である。


■デジタル化により混合多重編成を実現


 デジタル化により、多チャンネル化や多機能化を簡単に実現できる。

 デジタル化されると、動画圧縮技術(BSデジタル放送ではMPEG-2:Moving Picture

 Experts Group 2)を利用できるので、アナログ放送1チャンネル分の周波数帯域に

 3チャンネル程度の映像信号を詰め込んだり、アナログ放送1チャンネル分でHDTV

 (High Definition TeleVision ハイビジョンテレビ)映像を伝送可能になる。

 また、テレビ放送に限らず画像データや文字情報などの伝送にも利用でき、

 番組情報やニュース、天気予報、ショッピングモールなどの情報提供をすることが可能である。

 さらに電話回線を用いれば、双方向サービスも実現できる。

 このようにBSデジタル放送では、多チャンネル放送にしたり、HDTV映像を放送したり、

 文字情報を組み込んだりと、放送局ごとに多彩な番組構成を行うことで、高機能化された

 テレビ放送やマルチメディアサービスが提供可能になるのだ。




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