ISO12100“機械類の安全性”について

1.             ISO12100とはどのような規格なのか

 ISO12100は,通常,“機械類の安全性”,または略して“機械安全”と呼ばれる国際規格の中の一つなのですが,正確には

(1)機械類の安全性―基本概念,設計のための一般原則―第1部:基本用語,方法論

(2)機械類の安全性―基本概念,設計のための一般原則―第2部:技術原則,仕様

の2部構成になっています。ただし,実はまだ正式には発効していなくて,現在,ISO(国際標準化機構)のTC(技術委員会)であるTC199で審議中なのです。といっても,数十年の歴史のある英国の規格から出発して欧州規格EN292となり,それを基に1992年からISO/TC199で審議をし,TR(技術情報),CD(委員会ドラフト)を経て現在,DIS(国際標準ドラフト)という審議の段階にあり,2001年〜2002年頃に掛けて成立の見込みです。一般に,国際規格が制定されるまでは時間が掛かりますが,この規格が特に何故こんなに時間が掛かっているのかと言うと,安全の根本を決めるA規格(基本安全規格)だからです。慎重を要すると共に,各国の歴史,社会,文化とも深く関わるからです。現実には,このA規格の内容を前提にすでに同時平行的にB規格(グループ安全規格)やC規格(個別機械安全規格)が個々に定まりつつあります。ここで紹介するISO12100は,これらの機械安全に関する膨大な規格類の頂点に立つ規格です。今回は,12100の概要として,第1部から安全の基本概念,危険源,安全方策の選択指針と設計者とユーザとの義務の関係,及びリスクアセスメントについて,簡単に紹介を致します。

2.             安全に関する基本概念

 第1部では,まず,機械(類)とは,機械の安全性とは,危険源とは,危険状態とは,リスクとは,リスクアセスメントとは,安全機能とは,ガードとは,等々の種々の基本的な安全に関する概念が定義されています。本規格は,ISOとIEC(国際電気標準会議)とが合同で定めたガイド51「安全の規格作成のためのガイドライン」に従って定められていますので,本規格とガイド51の両方を参照すると最も基本的な機械における「安全」の概念は,次のように定義されることになります。

安全:許容可能でないリスクが無いこと(すべてが許容可能なリスクのみであること)

許容可能なリスク:その時代の社会の価値観に基づく所与の条件下で,受け入れられるリスク

リスク:危険状態において起りうる人体の受ける物理的傷害又は健康障害の確率とその最大のひどさの組み合わせ

上の定義で大事なことは,絶対安全を主張しているのではなく,残っているリスクを我々が受け入れるか否かで安全が決められるということです。

3.             機械類により生じる危険源

 危険源(傷害または健康障害を引き起こす根源)に人が暴露する(居合わせる)ことで危険状態が発生します。従って,安全を確保するためには危険源をすべて見出すこと(規格では同定と呼びます)がまず第一となります。本規格では,可能性のある危険源が大分類されて示されてリストアップされています。

4.             安全方策の選択指針

 ISO12100では,安全の階層的実現を目指し,取るべき対策に順番をつけています〔図1〕.すなわち,

1)設計によるリスクの低減(本質安全設計)――機械の設計段階におけるリスク低減

2)安全防護によるリスクの低減――機械自体のリスク低減対策では未だ不十分である場合における対策としての防護策(ガード)の利用

3)使用上の情報によるリスクの低減――これらの安全方策を施した後に残るリスクをユーザへ伝えるための指示事項,及び警告

の順に適用しなければならないと規定されています。メーカ側で機械自体に上記のようなリスク低減を施した後にユーザ側に渡され,ユーザによる

4)組織や訓練によるリスクの低減

はその後とされているのです.すなわち、ユーザ側ではなく,まず機械側で安全を確保することが要請されているのです.

 

<<図1 設計者とユーザの義務範囲の関係>> 

5.             リスクアセスメント

 本規格では以下の手順でリスクアセスメントと呼ばれる方法を実施することが要請されています。 まず第1に安全方策の選択指針として、機械の制限の決定(使用上の制限、スペース上の制限、時間的制限)が要求されます。その制限が決定した後、設計者は、機械寿命上の全ての局面における人間との係わり、機械で起り得る状況、予見可能な誤使用を考慮し、機械によって引き起こされる可能性のある各種危険源を同定し、傷害又は健康障害にいたる全ての状況を想定しなければなりません。次に上記の各種のリスク低減手法を順次施した後,リスクを見積もり、評価の結果、リスクが除去されれば問題無しですが、許容可能でないリスクが残留すれば、再び本質安全設計、安全防護、使用上の情報により可能な限り許容可能なリスクにまで低減することが要求されます。これがリスクアセスメントです。

 


 


参考文献

前回と同じ